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 夕食をぺろりと平らげたあとは、風呂を貸して貰った。  服を借りて、髪を乾かして、歯を磨いて。やることが終わったら、唐突に睡魔が襲ってきた。  週末ともなればこの疲労も仕方ないか。  黒を基調とした部屋、黒のシーツ、紘野が普段使ってるベッド。清掃が行き届いているものの、模様替えも家具が増えてもいない。  ラグに座り込み、頭を後方のベッドにぽすんと預ける。静かだ。 「……どうして俺の部屋にいる」  声がした方をふと見ると、開け放たれた扉に肩を預けたまま俺を見下ろす部屋の主。使った食器を片付け終えた紘野が、寝室で寛ぐ俺の状態を見てそう言った。  何気ない立ち姿すらモデルのよう。この8等身おばけめ。  元ルームメイトとはいえ自分の部屋に勝手に入っていたらもっと迷惑がりそうなものだが、相変わらず鉄壁の無表情なので、そのあたりは汲み取れない。  今すぐ出て行け、と続かないあたり、邪魔者扱いまではされてないと信じたいけど。 「……もっと親睦を深めたいなあなんて思いまして」 「頭打ったか」 「……」  部屋自体がルームシェアに適した構造なので、向かいには俺が前使っていた寝室があり、いつもならそこを使う。  だが、せっかくの外泊だからもう少し駄弁りたいと思うのが純情なお泊まり心というもの。こいつにはそれがわからないらしい。  ……少しは甘えたっていいだろ。  俺にとってはこの学園で数少ない、ありのままの自分でいられる貴重な相手なのだから。 「何かあったか」 「……」  近づいてきた紘野が俺を越え、ベッドに腰を下ろした。上から見下ろされ、光が遮られたことで視界が少し暗くなる。  紘野から振ってくれるなんて珍しい。それだけ、疲れてるように見えるってことかな。  まあ、言いたくないときは言わなくてもいいというスタンスだから、この距離感が好ましい。 「……まあ。ちょっと、な。気になることがあって」  身体的な疲労以外に、今後面倒になりそうだな、という精神的なダメージがいくつか。  まずはAのこと。  マツリのこと。  そして、王道のこと。  引っかかりを覚えた程度だが、一度違和感を感じるとどうにも簡単には無かったことにはできない。  『やっぱりお前も助けてくれるんだよな』という王道の言葉は、つまるところ「オレの周りイイ奴ばっかりだぜ友達最高!」という鈍感スキルと人類皆お友達脳をこじらせた結果、なんだと思う。  でもそれは言葉だけをそのまま受け取った場合であって。  あのときのあいつは、……どことなく。 「……いや、なんもねえよ。なんもねえってことに、しておいて」  だが、違和感をもったところで、必要以上に関わる義理はない。相手の機微に気付いたことに気付かれた方が余計に面倒そうだ。  『お前"も"』とは、俺以外にもアイツを助けるやつはいる、つまり他の人間と同じだと言われたようなものだし。  それでいい。こちとら別に、王道の特別になりたいわけじゃない。  

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