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シーツ越しにぎゅうと抱き竦められて、ごろごろ転がって逃げる作戦は早々に絶たれてしまった。お風呂上がりでいつもより高い体温が伝わる。
つうか普通に苦しい。はなして。あと俺のアイフォンさん無事???
「おいコラ、何を……ぅううぐ……」
「大人しくしてろ、枕」
「誰が枕だ……!」
抵抗すればさらなる圧迫感が俺を襲う。せまい。苦しい。
冷房のおかげで暑くはないにしても、邪魔だ。とにかく邪魔だ。
経験として、同室時代にも添い寝なら何度かしたことがありはするけど、こんな、下手をせずとも誤解を招く体勢は遠慮願いますまじで。
手当たり次第にシーツを引っ張っても脱出の兆しが見えない。そうこうしてるうちに体の自由まで奪われる。
多分、頭の上にこいつの顎が乗っている。
背にはこいつの腕が回っていて、俺の脚はこいつの長い脚に絡めとられている。
この野郎、マジで抱き枕にしやがった……。
「あつい」
「……」
「なあ、あちいんだけど……」
「寝ろ」
「帰る。アイフォンさんと一緒に帰る」
「どうせ帰れねえよ」
「は? なんで?」
「いま、外。暗えぞ」
あ、やだ。帰りたくない。
夜の学校とかただのホラーだ。《学園の七不思議》なんてものをを風の噂で小耳に挟んだことがある。今はもう11時過ぎ。いくら守衛さんの迎えがあろうと、こんな時間に外に出るのはできれば遠慮したい。
仕方なく引き下がり、肩の力を抜く。
抱き枕が大人しくなったことで、紘野はその拘束を僅かに弛めた。
「……」
「…え、もう寝たの、お前。早くね?」
そして微動だにしなくなる。寝息さえ聞こえない。死んだように寝ている。
おやすみ三秒とか早すぎんだろ。どこののび太さんだよ。
「…………まったく、もう」
それはそうと。
俺も眠くなってきてしまった。
別に、紘野の気まぐれに付き合う義理もなければ、振り回されたいわけでもない。
それでも結局俺の方から折れてしまうのは、学園内で俺の裏表を知る数少ない人間への信頼が、安堵が、あるから。
生徒会専用寮の広すぎるベッドよりはずっと、馴染んだ空気。
安全な場所。居場所。
広く逞しい胸板に頬を寄せる。
不思議と。本来男同士でしようものなら拒絶反応を起こしそうな過度なスキンシップも、紘野が相手だと全然平気だ。
むしろ…────静かで、安心する。
そんなことを考えながら、うつらうつらと眠りの淵をさまよう。
しかしもしも睡魔に負けてこのまま紘野とベッドを共有したことがもし万が一バレた場合の腐男子の反応を想像したら眠気も吹き飛んだ。
とりあえず部屋だけでも変えた方が良さそうだと、起き上がろうとした、ものの。
「……あ?」
動かね。
もう一度。チャレンジ精神大事。
「くっ……、そ、起きろテメェ……!」
これもしかしなくても脱出無理ゲー。
* * *
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