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 ひとまず向かいのソファを勧めて、ちゃんとしたカップに理事長の分の茶でも入れようと給湯室へ立とうとすると、にこにこ笑う理事が「構わないよ」とひとこと、俺をこの場に留める。  ……俺個人としては、時間を稼ぎたかったんだけどなーなんて。  つーか理事長の話終わったの? 会長はまだ?  あの人が締めないと集会終われないんですけど。藤戸氏頼む、週末ゲーム三昧でテンションハイなのはわかったから早く解放してやって。 「……今日はどうして急遽、集会に? 遅くとも前日までには連絡を入れていただかなければ、生徒が混乱します」 「それは俺も申し訳なかったと思うよ。でも、この一ヶ月でルイが学園の生徒とイロイロあったみたいだったから。居ても立ってもいられなくて」  理事会はこれまで、学園の運営形態に口を出すことはあれど、生徒の在り方にまで言及することは俺が知る限りはなかった。  そんな中このタイミングで、理事としてではなく叔父として介入する時点で身内贔屓も甚だしいのだが、所詮はそれが権力だ。深入りはしない。  王道と学園の生徒とのイロイロといえば、親衛隊による制裁や軽いイジメなどが当てはまるだろう。  溺愛してる甥が可愛いのは分かるが、いくらなんでも理事が集会で生徒達に圧力をかけるのは、やり過ぎだ。自分の発言力が如何に凄まじいか、俺よりも熟知しているだろうに。 「親衛隊の暴走については、こちらでもできる限り対処するつもりです」 「うん、それもあるんだけど。あの子は惚れられやすいところがあるから、そこが心配で」 「、……。そう、なんですか……」  俺いまもしかして、甥っ子自慢されてる……?  百歩譲って、甥がいじめられてるとかひどいめに合ってるから心配、だったらまだ理解できるが、惚れられやすいから学園の生徒に釘を刺すってどんな新手のモンスターペアレントですかね。  白けた顔つきにならないよう細心の注意を払いながら適当な相槌を打つ。  しかしなんの前置きも素振りもなくにっこりと笑ったままの理事長から何気なく投下された話題に、内心冷や汗を掻いた。 「キミは、そういえば。転入早々ルイを気に入ったそうだったね」 「ええ……まあ」 「俺の個人的な考えとしては、キミを含めた生徒会役員も、一筋縄ではいかない生徒だと思っていたんだけど」 「……」 「『参考』までに聞かせてもらおうかな。キミにとってルイは、どんな存在?」  作り物のようにどこまでも深く美しい藍色の瞳が、まるで心の深淵まで覗こうとするかのように俺の視線を絡めとった。  なにげない表情、言葉でも、答えるまで逃がさないという無言のプレッシャーが伝わってきて、生唾を飲み込む。  どう答えれば乗り切れるだろう。  いいや───どう「言い訳」すれば、この瞳から見逃して貰えるだろう。  暴かれたわけでもないのに、半強制的に告懈を命じられた咎人のような心境にさせられる。  一度唾を飲み込み、口を開いた。 「そ、れは、」 「───理事長。ご足労いただき感謝します。……しかし、長居は無用では?」  物音をほとんど立てることなく入室した人間が発した一声により、喉まで出かかった俺の声と、この微妙な空気は瞬く間になりを潜めた。  

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