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 時は流れ、放課後。  薔薇園の近くに設けられたガーデンテラスの茶会席にて、園陵先輩に招かれ、茶菓子を馳走になっております。  ブレイクタイムはすっきりとしたニルギリと味わい深いアッサムのミルクティに、マカロンやビスケットなどの甘い洋菓子と先輩の笑顔を添えて。  そんな幸せティータイムの真っ最中、学生鞄に入れた携帯が振動する。表示された名前を見て内心眉を寄せた。 「……ハイ?」 『リオ』 「何ですか会長」 『今どこに居やがる』 「校内デートの邪魔をしないでいただけますか」 『……は? 誰と』 「今日はサボります。明日はきっと頑張ります」 『質問に答えてねえぞ』 「では失礼いたします」  構わず通話を切った。ついでに電源も落とす。  何事もオンオフって大事だと思う。たまにはあの人も役員のサボリ宣言に振り回されたらいい。  心配げな園陵先輩に大丈夫だと伝わるよう、小さく笑いかける。  6月のイベント行事はまだ先だし、月初めのアップデート業務は昼休み中に済ませてきた。急ぎの書類も逼迫した問題もないので今日1日オフにしたところで支障はないだろう。  俺が勝手にサボり宣言しているだけだから、園陵先輩はどうか罪悪感は抱かず笑っていて欲しい。それだけで元気100億倍。 「……今のは、神宮様からのお電話だったのでしょう? お仕事の都合も考えずお誘いしてしまい、申し訳御座いません」 「大丈夫ですよ。会長って、本当に緊急の時は開口一番に要件と指示だけしか言わないんです。今の電話は恐らく、暇潰しか何かでしょうね」 「それなら良いのですが……せめて、居場所だけでもお伝えなさらないと、神宮様も心配されるのでは……?」  そんな勿体ないことするわけないでしょう。せっかくの安らぎティータイムの場を会長に邪魔されでもしたら迷惑極まりない。  何より園陵先輩が神宮様一色になるのは目に見えてるので会わせたくございません。 「会長が私を心配なんて、それこそ無いですよ。それに、たまには私も生徒会業から離れてこんなふうにリラックスしたいのです。日頃の行いはいいはずなので、このくらいの褒美を貰っても罰は当たらないでしょう」 「貴方様がリラックスできるほどのおもてなしをわたくしができるかどうかは……努力致しますが」  美人で器用で謙虚ってなんでしょうこのハイスペック嫁力。そんなふやけきった思考は顔に出さず、とりとめのない雑談に興じる。  歓迎祭や仕事の話、くだらない日常生活のことまで話題は広がった。  園陵先輩といるとすべての屈託が綺麗に解消するから不思議だ。これでまた今月も頑張れる気がする。  そんなふわふわとした幸福に浸っていたとき、少し離れた薔薇園の方から、それはそれは小さな───。  ” にゃぁ、 ” 「………は?」  鳴き声、が……。 「……どうかなさいました?」 「あ……、いえ、今、どこかで……」  うっかり素に戻った表情を引き締め、椅子に腰掛けたまま背後を振り返ったが、特に変化は見受けられない。  気のせい、かな。……気のせいだな。うん。  なんでもありません、と誤魔化すように笑って、座り直してティーカップに手を伸ばす。ソーサーの上にあったカップの取っ手に触れようとした、その直前。 「隙あり」  気が抜ける掛け声とともに、後ろから伸びてきた手によってカップごと誘拐されてしまった。  

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