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 バッと振り返って見上げると、ちょうど紅茶を飲み干す相手の喉仏がこくんと上下する様がよく見えた。  まだ半分も飲んでなかった。  園陵先輩がいれてくれた、俺の、紅茶が……!! 「何の嫌がらせですか保健委員長サン」 「おや、他人行儀とはつれないな。もしやご機嫌斜めかのう、副会長殿?」 「さて、一体誰が原因でしょう?」 「ハァーイ」  良い子の返事とは裏腹にまったく反省の色なくいたずらっこのような無邪気な顔でにんまり笑うのは、神出鬼没の保健委員長・二葉先輩。この人も顔を見るのは歓迎祭以来だ。  注目していただきたいのはその右手に持つ空っぽになったカップ。高級ブランドメーカーの茶器が手の中で危なげなく弄ばれている。この悪魔、二葉先輩許すまじ。  というか今、俺の背後から来たよなこの人。さっきの鳴き声も俺の後ろの方から。そして気配もなく急に出てきた二葉先輩。これってもしや……。 「さっきの鳴き声は、二葉先輩が……?」 「鳴き声、とな」  大人びた見目のわりには、こてりと首を傾げる仕草が案外似合う。  この様子ではどうやら鳴き声には気づかなかったのだろう。こっちも冗談のつもりではあったが、一応確認として。 「一度、にゃあと鳴いてみてくれません?」 「それは副会長殿がソウイウ趣向だと判断しても?」 「すみません冗談です」 「お主でも冗談を申せたのか」 「どういう意味ですかそれ」 「まあまあ。チトセ、すまぬが、おかわりを貰えるか?」 「はい。少々お待ち下さい」  快く了承した園陵先輩が席を立つ。おかわりっつうか、俺のための一杯だったんですけどね……?  園陵先輩が席を立つのと入れ替わり、二葉先輩は近くの椅子を引いてきてそこに腰を下ろした。  せっかく二人きりの茶会だったが主催の園陵先輩が飛び入り参加を認めたので、ここは大人の態度で受け入れよう。  ただ困ったことに、二葉先輩と仕事以外の場でサシで話す機会はあまりなかったので、話題が特に思い浮かばない。話題、何か話題……。 「副会長殿と少々お喋りをしたかったのだ。例の、噂の一年生のことで」 「ルイのことで、ですか? ……ええ、まあ。構いませんが」 「ルイとは誰だ」 「えっ……転入生の話でしょう?」 「ああ、そう。そのルイとやら」  話題提供はありがたいが、日に二回も王道のことで尋ねられることになるとは。そろそろ飽きたんですが。  それとも何、二葉先輩も王道に興味を持った可能性がなくもない? 「なんと名乗っておったか…………確か……さ、……さ、……さー……?」 「佐久間、です」 「あ、そうそう。佐久間殿。佐久間なんとかくん」 「……だから、ルイです。佐久間ルイ」  どうやら王道は安定の美形遭遇率でついに二葉先輩とも接触したらしい。そして名乗ったにも関わらず名前を覚えて貰えなかったらしい。  察するに、これは興味の欠片も無さそうだ。  

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