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結局、大した進展もなく進路相談は終了。ほとんど中身のない会話で半刻も時間を無駄にしてしまった。おかげで疲れた。
生徒会の雑務は一段落ついているし、今日はもうはやく帰ってはやく寝たい。
職員棟から出て、まっすぐ生徒会室を目指す。学生鞄はそこに預けている。
速足で廊下の角を折れた瞬間、鉢合わせた赤髪にげんなりした。
「……よォ、リオじゃねェか」
「……なんでしょうか。急いでるので引き止めないで下さい」
「社交辞令でいいから挨拶くらい返せボケ」
「こんにちは。ではさようなら」
「ちょっと待てコラ」
「なんですか、ちゃんと挨拶返したじゃないですか。仲が良いと周りに思われたくないので、距離を置いて欲しいんですよ」
「用件がなけりゃ誰が好き好んでテメェに話しかけるかってんだ。こっちだって一刻も早く距離置きてェわ」
癖が少ない清潔感のある赤髪を持つ男はそう言って、気性ったらしく腕を組み壁に肩を預けた。
早く用件を言え、としかめっ面で睨むと、何を勘違いしたのか不愉快そうな顔になる。こっちだって見たくて見てるわけじゃねんだよボケが。
「そんなに見惚れんなよ、吐き気がすんだろ」
「自意識過剰もここまでくると病気ですね、ツバキ先輩」
───彼は一般生徒寮の寮監長にして、別名《緋彩》の君と呼ばれる三年生、東雲椿 先輩。
その名のとおり赤椿のように鮮やかな赤い髪と、好戦的ながら色気を漂わせる瞳、やや厚めの唇。ごく一部の生徒のあいだでは"悪役美形顔"と褒められ(……ているのか微妙な線だが)、役職柄一般生徒との交流が密接で、学園でも目立つ先輩だ。
しかしわかるとおり、俺とは相容れない。性格もそうだが、何より性的な意味で。
───ツバキ先輩は、タチネコノンケ関わらず食い漁るバリタチであり、『ゲイ』だ。
この学園の多数を占める両刀 とは、似て非なる。
俺からの彼への印象はというと、去年いろいろとあったおかげで見事底をついている。だから、つい惰性で反抗的態度を取りたくなってしまう。
「それはそうと、話は聞いてんぜ。今回の新歓、お前が主として計画したらしいな。生徒には大変好評だったとよ」
「え、ああ、それは良かった……」
「ほとんど志紀本の手柄なのになァ!」
「そこは重々承知してますよ……!」
「さーてどうだか」
「嫌みを言うために引き留めたのならもう帰りますよ!?」
地味にヒートアップしていく口論の中、俺たちの周囲にいたはずの生徒がどんどん距離を取っていたことに気付くことはなく。
「東雲! 支倉! また貴様らか……!!」
騒ぎを聞きつけたのか、廊下の向こうからは生徒指導の怒鳴り声。
やや、クマちゃんではないか。
ぽこむ、と間抜けな音をたてて、俺と先輩の頭に丸めた紙束の安打がヒット。大柄な相手を見上げたツバキ先輩が、つり上がった眉をぐっと寄せる。
「チッ、熊里……」
「熊里センセイだ馬鹿者!」
怒られてやんのー。
クマちゃんから見えない、かつツバキ先輩には見える位置で、口元を隠して嘲笑う。
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