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 クマちゃんは家柄や地位に関係なく全校生徒に等しく厳しい先生だから好きだ。どっかの怠慢と違って真面目だし、大多数の教職員と違って生徒会を理由に態度変えたりしないし。  クマちゃんの受け持ちは3ーS。担任からのお説教とは、これはこれはツバキ先輩ざーまーあ。 「お前らはもう少し……己の認知度と影響力を重々理解して、慎んで行動しろ。それから公衆の面前で子供のような罵り合いをするな」 「すみませんでした……」 「教師の前だからってイイコちゃん気取りやがって、」 「東雲ェ……」 「……すんませんっしたァ」  外面だけはいい俺はとりあえず申し訳なさそうな顔をつくって粛々と頭を下げる。うむ、と頷いたクマちゃん。これぞ信頼の差。  こんなところで道草もぐむしゃしてる場合じゃない。早く帰る。俺は帰るんだ。  ではさようなら、と暇を告げてさっさと抜け出そうとしたものの、何故かクマちゃんに引き止められた。  なんだよ、残念ながら取れたての鮭はあいにく今は持ち合わせてないぞ。 「喧嘩両成敗だ。お前ら、今からそこの印刷室の整理。終わるまで帰さん」 「「エッッッ」」 「ちょっとは歩み寄りの精神を育んでみろ。互いに」  クマちゃんが教師として間違ったことを言っているとは思わない。思わないが……。  ツバキ先輩の横顔をちらりと確認。  率直に言うと、密室にこのひとと二人きりには、なりたくない。  そもそも、『ゲイ』という人種自体に忌避感情がある。  LGBTだ差別だと騒がれるご時勢なので分別は弁えているが、根っこから同性しか愛さない少数派の学園生(ゲイ)と、女性の代用として男に走る多数派の学園生(バイ)とでは、俺の中では認識が違う。  悪人ではないと頭では理解していても、手を取り合い仲良く相互理解を深められるかと言われたら、否だ。 「文句があるなら聞く」 「ありませんけど……」 「こいつとかよ……」 「……。こっちの台詞ですが」 「お前が相手じゃあ密室に二人きりのシチュエーションでも萎える一方だぜ」 「反応を起こされたらそれはそれで黒歴史でしかありませんけどね」 「、この猫かぶりが!」 「うるさい色情魔!」 「やめんか!!」  あと単純に、相手が気に食わない。いちいち突っ掛かってくるんですもの。  いがみあっていた最中にクマちゃんから首ねっこを掴まれ、俺とツバキ先輩は印刷室のなかにぽーいぽーいと順番に投げ入れられた。扱いが雑。  出入口を勢いよく閉めきられ、外からロックがかけられる。まあ内側はこちらなので、いつでも出られるわけだけど。 「整理っつったって……これ以上どこをどう片付けろってんだよ……」 「あの先生たまに天然入ってますよね……」  ご存知のとおり、ここはセレブ校である。  お掃除グッズは最新鋭、さらに数百といる清掃員の汚れハンターぶりときたら、住処を追われる埃側が縮み上がるレベルである。  さほど広くはない印刷室もその例に漏れず、フロアマットには塵ひとつ落ちておらず、窓はぴかぴか、テーブルもつやつや、空気も入れ換えたばかりのように澄みきっている。  クマちゃんはここの一体どこを整理させるつもりだったのだろう。今頃まさに言った本人も「あっ、」とか思ってそうだ。  

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