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 とりあえずここは『同じ空間で共同作業を行いました』というポーズが大事だ。  ということで、30分くらい引きこもればクマちゃんも納得するだろうという判断に二人して至った。  俺は基本的に真面目ちゃんなので、ひとまずコピー機の用紙を補充したりディスプレイを拭いたりと、それなりに整理整頓っぽいことをする。  一方のツバキ先輩ときたら自分だけ窓の桟に浅く腰掛けて窓の外を見ている。そこから見える景色はさぞ素晴らしいんだろうな。だから手伝う気もサラサラ起きないんだろうなあ? ああ?? 「そういえば結局、ご用件とはなんだったんですか。もとはといえば、あなたが手短に用事を済ませないから、こんな面倒なことになったんですよ?」 「チィ…………獣、注意。見たら至急、連絡。以上。おら、手短に済ませたぞ」 「は? そんな語彙力で伝わるわけないでしょう。タツキと違って微笑ましさが足りない」 「テッッッメェが手短にっつったんだろが」  また本題に辿り着けぬまま口論が発生しかねないと気付き、お互い一度沈黙する。ひとつ舌打ちしたツバキ先輩は、怠そうに詳細を語りだした。  それにしても舌打ちが多いなこの男は。はあやだやだ。 「2・3日前以降、部活帰りの一般生徒から野生動物の目撃情報が何度かあがってる。もし見かけても近づかねェで、オレか風紀に報告、連絡、相談しろ。というコトを、他の生徒会のヤツらにも伝えておけ。ほら、理解できたかよ」 「野生動物……? それって、危険はないのですか? ヒグマとか、野ゴリラとか」 「目情によれば、さすがにそこまで大型でもなかったらしい。多分、仔狐や仔狸や仔鼬といった小動物だ。つうか野ゴリラってなんだ」 「その程度でしたか。可愛らしいじゃないですか」 「だが一応ここは山中だし、気性が荒いかもしれねェ。そう言って、怯えてる生徒らもいる」  俺から言わせればきつねやたぬきやいたちがひょっこり草むらから出てきたらほほえましいニュースでしかない印象なのだが、学園生はそのあたり潔癖だ。  衛生面から言っても近づかない方が賢明だし、親とはぐれただけの迷子なら尚更。  もし発見されれば、学園の警備員に捕獲されて……最終的には、処分、されちまうのかなあ……。  ちょっと可哀想だ。獣の方も別に好きでここに迷い込んだわけでもなかろうに。  ペットを飼ったことはないが、日頃もふもふ動画などで大変心の癒しを貰っているので、ほんのりと心が痛む。  ふと、先日の"鳴き声"を思い出した。  あれはもしや…………いいや、たぶん気のせいだ。あれはきっと薔薇園の精霊みたいなアレだ。いやいやいや、そっちが正体だった方が余計に怖いな……。 「あ」 「え?」 「降ってきやがった」  ぽつ、ぽつ、ぽつ、と、小さな水滴が、曇りのない窓を音もなくノックする。  6月に入って以来、はじめての雨だった。  

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