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とりあえず目の前に屈んで、学生鞄に入れていた予備のタオルで子猫をふんわり包む。
ほんと、一応用意しておいてよかった。
タオル越しに伝わるイノチはちいさく震えている。弱っている。
この震えをずっと肌で感じていたタツキが不安そうな顔をしていたのも納得だ。確かにこれはちょっと……怖い。
「りおが…抱っこ、して……」
「……分かりました。では、傘と荷物は頼みます」
びっしょり濡れたタツキでは余計に子猫の体温が奪われてしまうだろう。
抱えたぬくもりを大切に胸に抱く。
子猫が濡れないよう傘を差してもらい、できるだけ振動を与えないように注意を払いながらトンネルを進む。
目的地はすぐそこだというのに、帰り道がやけに遠く感じた。
「──二人ともどうしたんだい!? 特に横峰くん、ずぶ濡れじゃないか!」
生徒会寮のエントランスに足を踏み入れた瞬間、顔色を変えた守衛さんが大きなバスタオルを持って真っ先に駆けつけてきた。
声の慌てようとは裏腹に、慎重な手つきで俺とタツキの肩にふわりと柔らかく掛ける。
タツキが猫のおまけに俺まで濡れないようにと傘を傾けてくれたおかげで俺はさほど雨に当たっていないが、タツキは頭から靴の先までびしょぬれだ。
頭をぶんぶん振って水滴を飛ばす仕草がまさにわんこ。
「……かくかく、しかじか」
「ごめん分からない! とりあえず事情は後! お風呂入っておいで!」
「でも、」
チラチラとこちらを、正確にはタオルの中身をタツキが窺う。
心配なのは結構だが、まず間違いなくお前の方が先に風邪を引くと思う。お母さんは看病しませんからね。
「こちらは一旦任せて、あなたは先に温まって下さい」
「…………5分でもどる」
「10分」
「……はぁい」
しぶしぶと頷き、それから全力疾走で階段を駆け上がっていった。元気かよ。
タツキの部屋は4階で、そこそこ段数もあるのだが、エレベーターを待つ余裕はなかったらしい。
「……その子猫、拾ったのかい?」
「ええ、タツキが。ただ、随分と弱ってるみたいなんです」
「ちょっと、見せてごらん」
そろそろとタオルごと差し出すと、守衛さんは子猫を優しく抱き上げた。
腕の"重さ"が減ったことで、肩がずっと軽くなる。
「目は、……うん、開くみたいだね。部屋をあたたかくして、しばらく様子を見ていようか」
しばし観察した後、優しく目を細めた守衛さんは俺を見て安心させるように笑う。
ひとまず守衛さんに任せておけば大丈夫そうかと胸を撫で下ろして、警備員室へと向かうその背を追った。
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