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「紅茶で良かったよね。適当に寛いでてくれ」 「お邪魔しまぁす……」  レインブーツを脱ぎ、そろりそろりと警備員室へ足を踏み入れた。お茶の準備を始めた守衛さんに代わり、再び腕の中に戻ってきた子猫をしっかりと抱き直す。  通されたのは畳の部屋。暖房のスイッチを入れて、いくらか重ねた座布団の上にブランケットでくるんだ子猫をそっと下ろした。  守衛さんいわく、生後からそこそこ日は経っているため命に危険が及ぶほど弱ってはいないらしい。  適温で暖めて安静にさせておくのが一番良いのだと。ちなみに猫用のミルクは知人に頼んで持ってきて貰えるとのこと。  ただ、守衛さんを疑うわけではないが、どうにも落ち着かない。  これで本当に大丈夫なんだろうか。  今はぐっすり眠っているようだけれど、さっきまでの衰弱しきった姿を一度見てしまった後では、目を覚ますまではどうにも安心できない。  頬杖をつき、タオルの隙間から見えるピンクの鼻をぼんやり見つめる。  このこが、噂の『獣』か。  見つけたときはすでにタツキが保護したあとだったので"発見しても近づかない"という忠告は守れなかったが、報告・連絡・相談は追々しなければならない。  でもそうすれば……このこは、どうなるんだろう。  ヒヤリとした想像が指先にめぐったところで、ここで警備員室前のインターホンが来客を告げる。  ちょうど紅茶と茶菓子を盆に載せてキッチンから戻ってきた守衛さんがクスリと笑って、「出迎えを頼んでいいかな」と俺に言う。いやいや、10分も経ってねえ。 「リオ……!」 「おっ、と……早かったですね、タツキ」  ドアが開くやいなやすごい剣幕で詰め寄られいつもより鋭い声で名を呼ばれたのでちょっとびっくりする。  顔が顔なだけになかなかの迫力だったが、まあ相手はタツキなので怖くはない。  急ぐあまり髪を乾かさずにくることくらい予想済みだったので、ドライヤーの準備なら万端だ。  タオルをぺらりとめくり、すよすよ眠ってる子猫を見て、タツキは少しだけ寄せていた眉を和らげた。  とりあえず子猫は守衛さんに任せ、タツキを引き連れてリビングルームへと移動。  空いてるソファーに座らせ、後ろへ回る。  この大型犬は一度余所へ気を向けると自分のことさえ蔑ろにするタイプらしい。こっちも今は気が滅入っているので、世話を焼けるのは気分転換として有り難い。 「……自然にかわく」 「普段なら自然乾燥でも構いませんけど、今日は駄目です。さすがのあなたでも風邪を引いてしまいますから。そうすれば、完治するまであの子猫に会えませんよ?」 「……ん。あり、がと」 「どう致しまして。ほら、前を向いて下さい」  髪にのっけたボディタオルでわしゃわしゃと水気を粗方拭き取ってから、焦げ茶の短髪にドライヤーをあてる。  さほど音は大きくないが、子猫の眠りを妨げないよう風は弱めに設定。  しばらくはお互いに無言だったものの、風の音に紛れてちいさな独白が、ぽつりぽつりと聞こえてきた。  

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