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再びドライヤーのスイッチを入れ、完全に水気が無くなるまで丁寧に乾かす。その間、タツキはじっと下を向いて、おとなしくされるがままになっていた。
「終わりましたよ。では、子猫の様子を見に行きましょうか」
フワッフワに仕上がった髪に自分でも満足。
ドライヤーを回収し、さて和室に戻ろうかと足を踏み出したところで、ソファーから立ち上がったタツキの気配が、後ろに。
「──っ、痛、……なに、」
後ろから、ぎゅううと抱きすくめられた。
それはもうものっすごい力で。
「た、ッ、けほ……っ…」
「………大丈夫、じゃ、ない……」
「つ、タツキ、」
「……こわかった、」
「うぐ、ぐ……」
「あのまま、死…………かと……、思っ……」
耳裏でぽつぽつこぼされる泣き言に返事ができる余裕なんぞ俺にはなかった。
腹を後ろからだいしゅきホールドされ、逃げるように身体をくの字に曲げる。しかしわんこもそれを追ってくるからさらに背中に負荷が。待ってこのままだと俺の方が先に死んじゃう。圧死しちゃう。
「分か……、わ、わかり、ました、から。はなしてください……」
「……えー」
「えーじゃない」
とりあえずはこの力強い拘束と向き合う。
まったく、なんて馬鹿力だ。最初捨て身タックルされたのかと思った。
筋張った力強い腕を宥めるように軽く叩くとやんわり力を弱めてもらったけれど、解放する気は毛頭ないらしい。それどころか俺の肩に頭を預けてすりすりと懐いてくる。犬か。
俺、男なんだけどなあ……。
タツキは犬っぽいけれど、かといって人懐っこくはない。王道を拒絶したのがその証明。
親しい人間からすれば穏やかな性格だとわかるけれど、知らない者からすれば、この体格に加え無口、その上率先的に相手と打ち解けようとする傾向でもないので、怖がられることもしばしば。
だから、タツキからのスキンシップは、かなり重めの愛情表現と捉えても間違いではないのだけれど。
「おれのこと、心配してくれて、ありがとう」
「……」
今、まさに今、お前に将来カワイイ女の子のお嫁さんができるかどうか心配した俺をどうか許してくれ。
余計なお世話だとわかっていても。
もういいや。ちょうど冷えてた身体にタツキのこども体温はありがたいので、暖を取らせてもらうことにした。
姿勢を正してそのまま歩き出す。
後ろを引っ付いて歩く大型犬が非常に邪魔で歩きにくいが、意地になってずるずる引きずっていく。
身長が20センチ近く違うため、俺とタツキでは頭一個分も差がある。サイズ的なフィット感がなんだか悔しい。コラ、髪をかぐな、鬱陶しいわ。
「……何かあったの?」
きょとんとした顔で俺の背中の荷物を見る守衛さんには、苦笑いを返すことしかできなかった。何なら子猫だけでなく大型犬の方も引き止ってくれると嬉しいナ。
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