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場の空気を読んで全員が無言でテーブルを囲み、その中心を見守っていると、ブランケットの下のこんもりとした膨らみが動き出した。
ずっとすぴすぴ眠っていた寝坊助がやっと目を覚ましたようだ。
ふわふわのクッションの上で何度かころころと転がりながらまず最初にぴょこりと出てきたのは───灰色がかった折れ耳。
それから間もなく、全体的に丸っこい顔と肢体がとてとてとブランケットの外に出てくる。
そして、俺達6人の視線に気づいても臆することなく、猫はみゃお、と鈴の音のように可愛らしく鳴いた。
「……随分毛並みがいいな」
「………まあ、確かに野生の野良ではなさそうだね」
「「……」」
「首輪は」
「リボンがいい。ネームプレート無しで」
「鈴でもつけるか。こいつに似合いそうだ」
「色はどうしようかな」
子猫のビジュアルが明らかになった途端、面食い共が手のひらクルーしやがった。意志が弱い。
テメェらさっきまで怪しんでいたくせに飼う気満々じゃねえか馬鹿野郎、このこは黒リボンに金の鈴が絶対似合う。間違えた飼うなんて気が早すぎる。
” にゃっ “
「わ、飛んだ!」
「飛んだ飛んだ!」
「「タッキー、そっちに、」」
「………え、」
寝て元気になったのか、それとももともと好奇心旺盛な気質なのか、子猫といってもさすがは猫、バスケットの中からひょいと抜け出し、とてとてと短い脚を動かしてテーブルの上を歩く。
子猫が向かう先は俺のすぐ隣に立つ、タツキのもとへ。
目を見開いて動揺するタツキを一度仰ぎ見て、それから逃げるように後退した足に気付く。
……びびり過ぎだ、馬鹿め。
猫の方から人間に歩み寄ってきてんだ。人間のお前が怖じ気づいてどうする。
一歩下がろうとする身体を押し止めるように、支えるように、その背を一度ぽんと叩く。助けを求めるようなタツキの視線には気付いていたが、素知らぬ顔でやりすごした。
「……うん、」
首を縦に。意を決した横顔。
そろりと、人差し指の腹だけをのばし、子猫の額へと恐る恐る触れようとする。
大きなてのひらに反した、小心者の指先。
しかし、甘えたがりの子猫はその大きな手に自ら近寄り、スリスリと嬉しそうに頬ずりを始めた。手は一度びくりと跳ねた後、ゆっくりと弛緩する。
───自分を助けてくれた手であることが、子猫にも、分かるらしい。
「………良かった。無事で」
息をつき、嬉しそうに目元を緩めた姿に、こちらまで安心してしまった。
そして、腕組みしつつ見守っていたバ会長までわずかに肩の力を抜いたところを、横目で確認。
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