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マツリがすかさず「あげちゃだめ」と軽く注意してくれていたが、俺は見てしまった。それを訊いたバ会長が「はじめて知りました」みたいな顔で猫とマツリに視線を走らせる場面を。
6人中4人が致命傷。しばらくコイツらは猫に近付けさせない。
「失礼するよ。話はまとまったかい?」
両開きの大きな扉からノックが聞こえた。姿を現したのは、しばらく警備員室に籠もって何やら作業をしていた守衛さん。
手には何故か、小さめのジュエリーボックス。
「子猫の具合はどう?」
「目を覚ましてすぐ歩けるくらいには元気みたいです」
「そう、心配ないみたいだね。まあでも念のため、今日まで安静にさせておこうかな」
俺の指にじゃれつく子猫をブランケットで包み、持ち上げる。子猫は『あーれー』みたいなぽけ顔のまま大人しく腕におさまり、ブランケットの上に戻されるとそのまま大人しくちょこんと座った。
人なつっこい上に大人しい。猫の気質としては飼い猫に向いている。
「あ、そうだ。必要かと思って作ってみたよ」
「「首輪!」」
ボックスから取り出されたのは猫の首輪。黒リボンに金の鈴。鈴には可愛らしい花模様がさりげなくあしらわれている。
これ作ったってまじか。この短時間で。器用か。
守衛さんと俺の好みが一致したことを喜ぶ前に、それよりも守衛さんが誰より早々と飼う気満々だったことを察して頭を抱えた。
「オマケにこれも作ってみました。良かったら使って」
「……ストラップ?」
「オレ達に?」
「なんでまた」
「ただの趣味、だよ」
「「ありがとー!」」
続いて生徒会全員に手渡されたのは、リボン素材の黒紐の先に金の鈴が揺れるシンプルなストラップ。こちらも鈴には花模様が。
受け取ったものの、正直言うと……。
双子みたいな見た目可愛い系やわんこのような性格癒し系が身につけるならまだしも、男が使うにはちょっと勇気がいるデザインだ。
案の定、会長とマツリも微妙な顔。
俺も同じく、何よりこの年になって野郎で揃いのストラップというのも抵抗がある。
守衛さんにはバレないよう、そっとスラックスのポケットにしまった。
「はあ……分かりました。しばらくはここで様子を見ましょう」
「「……りっちゃん!」」
不承不承、頷くしかなかった。何せ味方がひとりもいない。
この雰囲気で反対し続けたら俺が空気読めないヤツみたいなかんじになるし、ちゃっかり首輪まで用意されたら、さすがに反対する気も失せた。これはもう、守衛さんが責任を取って面倒を見て貰うしかない。
ツバキ先輩たちへの報告については……一旦保留だ。そこはあとで会長に個人的に相談する。
しかし問題は山積みだ。
今日はここを猫の寝床にするとしても、まず必要なのはエサやトイレ。
基本的にペット禁制なので、学園内にペットショップはない。取り寄せるにもある程度の時間がかかる。
ペットを飼うということは小動物をただ愛でるだけでなく、それに伴いシモの世話だったり躾だったりと辛抱強く耐えねばならない事柄もあるのだと、このお坊ちゃんたちはちゃんとわかっているのだろうか。
………まあそこは、追々わかるだろう。
ひっついてくる双子を軽くあしらっていたら、どこかそわそわしているタツキの様子に気づく。
ああ、そうだった。
首輪以外にもうひとつ、必要なものがある。
「子猫の名前はどうしますか。タツキ」
「………決めて、いいの……?」
そりゃあ拾ったのはお前だし、誰もダメとは言わないだろう。
タツキは目が合うとぱちぱち瞬きを繰り返したのち、照れたような顔ではにかんだ。そうして大切そうに、その"名"を呼ぶ。
「よろしく……────『 』、」
"にぃ"、と。
子猫がまるで応えを返すかのように、満足げに鳴いた。
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