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「--邪魔すんぜ」
何の前触れもなく談話室に入ってきたのは、アッシュブロンドの髪を後ろで無造作に結った、長身の……どこかで見たことがあるひとだと思ったら───養護教諭。
「呼び出しといて出迎えの一人も寄越さねェたぁ冷てェじゃねぇの、クソ守衛」
「やあエロ保健医。君を出迎えるという罰ゲームを誰かに背負わせるなんて、それこそ非人道的だろう?」
「あ、かいちょーのお従兄さん」
「あいかわらず下半身ゆるそー」
「「どうしてここに?」」
「チビちゃん達は相変わらずソックリだねェ。オレはそこのクソ守衛に呼ばれて、仕方なーく来てやったの」
つかつかと中心まで来た養護教諭は、両手を塞いでいた紙袋をドサッとソファーにおろす。全員がのぞき込んだ袋の中には、猫用ミルクやトイレ、遊び道具といった、猫用品その他もろもろ。
どうやら守衛さんの知人とは養護教諭のことだったらしい。それにしても、短時間でこんなに。
「どうやってこんなに早く揃えたの?」
「そこは企業秘密。さすがにデケェ荷物は今日中に届かねェが、明日までには一式揃うだろ」
「「でっかい荷物ってー?」」
「猫には、"遊び場"が必要だろう?」
なに、この大人。
ただのいい人じゃねえか。尊敬すべき大人じゃねえか。
淫猥な雰囲気や無節操な噂のせいで誤解していたが、改めよう。心強い味方だ。一番の懸念が解消されて、不安だらけのペット生活に光が見えてきた。
役員達がペット用品を物色する中、ソファに寄りかかって静観している養護教諭へ頭を下げる。
「わざわざありがとうございました……助かりました」
黒目がちな目を覆う瞼が俺を映して、ゆっくりと細められた。
そしてにこりと、優しく笑いかけられる。
うわあ、かっこいい……。
前に第二保健室で居合わせたときは情事から目をそらすことに必死ではっきりと認識していなかったけど、この人、めちゃくちゃかっこいい。
会長の遺伝子にさらに大人の色気が融合して化学変化を起こしたら、きっとこうなる。
「素直にお礼を言えるイイコはスキだぜ、副かいちょォさん」
「あ、の……?」
あれ、なんでだろ。近い。近いよ。
音もなくいつの間にか縮まった距離。伸びてきた指先が、俺の顎を捕らえてクイ、と上に向ける。
舌なめずりする獣を前に、防衛本能が働いてぞわりと肌が粟立った。しかし蛇に睨まれた蛙のように、身動きができなかった。
俺の反応を見た養護教諭が妖しく笑い、親指だけが頬の稜線を撫で上げる。
僅かな動きだけでも分かるテクニシャンな指先に、かつてないほど身の危険を感じている。
前言撤回。尊敬できない。
この人たぶんバ会長より手が早い。
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