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 濡れた瞳が獲物を定めたとばかりにこちらを見据える。半歩下がると、一歩踏み込んでくる。  歓迎祭の時にされた、二葉先輩の忠告が頭をよぎった。 「この雨ン中帰んのヤダからアンタの部屋に泊めてくんない……?」 「!」 「今すぐ帰れ」 「土に還る?」 「あーらら。邪魔が入った」  会長が養護教諭と俺の間に割って入り突き飛ばそうとし、守衛さんが養護教諭の後ろから技をかけようとする。  そして養護教諭はどちらも上手く躱した。なんだこの人達、皆喧嘩っ早いぞ。 「……マツリ?」  そして彼らよりいち早く、俺を引き離すように後ろへ腕を引っ張ったのは、他でもないマツリだった。  ちょっと意外だった。会長と守衛さんは養護教諭に塩対応だから止めに入るのは分かるが、どうしてマツリが。  脱出できたことは、ありがたいけど。  マツリの手がやけにあたたかく感じる。タツキと違って子供体温じゃなかったはずなのに。 「あの、手を、」 「で?」 「……何でしょうか」 「雨に降られたって訊いたけど」 「ええ、少し濡れた程度です、が……っ」  思い出したように身体に悪寒が走った。反射的に腕を軽く擦る。  俺の腕を引いたマツリの体温を高く感じたのは、単に俺の身体が冷えていたからだったのか。 「どうせタツくんに先にお風呂勧めて世話焼いてたら自分のことは後回しにしてた、ってとこでしょ」 「そう……ですけど」 「疲れた顔してる自覚ある? って、前も訊いたよね。ようやく一段落ついたって矢先に、風邪なんて引かれたらヤなんだけど」  ああ、そっか。  俺がここで体調を崩して寝込みでもすれば、先月仕事をサボってた罪悪感をサボり勢に背負わせることになってしまうのか。  それなら尚更、風邪を引くわけにはいかないな。  試験が終わって仕事も落ち着いて、やっと一息つけたことで疲労も一緒に押し寄せて来たのだろう。部屋に帰ったらゆっくりお風呂に浸かって温まろう。温かくて精の出るごはんを食べて、そして早く寝よう。 「……今夜はもう解散しましょーよ。リオちゃんは早くお風呂に入って」 「一緒に入っていいかァ? オレも寒ィんだが」 「これからの予定は俺と仲良くお喋りのはずだよね、繋くん??」  守衛さんが養護教諭の肩をがしっと掴んだ。養護教諭はめんどくさそうに後頭部をかいたものの、手で払うように俺たちを談話室から追い出す。 「こっから先はオトナの時間だ。テメェらガキ共はさっさと寝んねしな」 「……家具壊すなよ」  え、何? 乱闘でもはじまんの??  

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