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広いエレベーターは6人乗ろうが窮屈に感じることはなく、ゆっくりと動き出した。全員で乗り合わせることなんて今までなかったから、なんとなく誰もくちを開かない。
箱の隅っこに収まり、今日の晩飯のことを考えた。温かいたまごスープは決定事項として、メインはお魚にするかお肉にするか。鮭か豚肉か。
クマちゃんには主に印刷室の件で恨みがあるので今夜は鮭を食べよう。風呂の前にごはんを炊き始めれば時間的にもちょうどいいかな……にしてもおなかへったな……。
夕食の献立を考えてるあいだにも、2階の双子、3階のマツリと、階を追うごとに人は減っていく。
4階のタツキが降りたところで、会長がぽつりと俺の名を呼んだ。
「リオ」
「なんですか、会長」
「タツキから何か聞いてんのか?」
「……何を?」
「知らないならいい。気にすんな」
そう言われると余計気になるのだが……。
横顔を見上げてアピールしてみても、会長は何も言わない。だから何となく、尋ねるのは戸惑われた。
ぽーん、という到着音がして、ハッと顔をあげる。俺専用フロアの5階に着いた。扉が開いた瞬間、通路はパッと明るくなる。
エレベーターから降りて、ではまた明日、と何事もなかった顔で声をかけた。しかし何故か扉はしまらなかった。
不思議に思って足元を見ると、会長が境目に足を置いて、エレベーターをこのフロアに留めている。人の気配にセンサーが反応して、扉が閉まることはない。
「……どうかされました?」
「いや、気が変わった。簡単にだがお前には話しておく」
秋の空より気が変わりやすいお心みたいでびっくりです……。
場の雰囲気からしてそう茶化せる空気でもないので、突っ込みは内心だけに留めておく。話の流れからしてタツキのことだろう。
それより会長が勝手に話してもいいものなのか。本人の許可は?
……まあ、会長だからいいのか?
「アイツは昔から、図体に比例して力も人一倍強くてよ。本人に悪気はなくとも、動物も人間も関係なしにケガをさせちまうことが度々あった。ガキの頃の話だが、けっこう、アイツの中ではトラウマだったみたいでな」
それは……知らなかった。
普段の温厚さとは打って変わった、怯えたような表情の裏に、そんな事情があったとは。
子猫を怖がらせただとか、死んじゃうかもって不安も、昔ケガをさせた動物達と重ねていたのかもしれない。
「だから今回、あいつが猫を拾ってきたって聞いて、心配はあったんだが……お前がフォローしてくれたんだろ」
「別に、そこまで大層なことは」
「代わりに礼を言っておきたかっただけだ。黙って聞いてろ」
「……その事情を知ったところで、私には何も出来ませんよ?」
「何もしなくていい。お前がただ、知っていることに意味がある」
会長はそれだけを言い残し、エレベーターは再び動き出した。
無人の廊下で、言われた言葉を反芻する。
フォローなんてしていない。慰めたつもりもない。そんな俺が知ることで、果たして何の意味があるというのだろう。
買いかぶり過ぎだ。俺はただタツキの独白を聞いただけ。そのくらい俺じゃなくともできる。代わりならいくらでもいる。
もしも俺を「信頼」してタツキの過去を話したつもりなら……やめてほしい。
生徒会に偽りの顔を向け続けている自分が、安易に踏み込んでいい領域ではないのだから。
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