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耳に届いたものは 1
6月といえば、プール解禁である。
我が学園のプールは、校舎本館の最上階にある。
幾何学の模様が描かれた白いタイルに白い壁。大きく切り取られた窓から見える景色はあいにくの曇り空だが、晴れていれば降り注ぐ陽光に照らされた水面がきらきらと乱反射する様が見れた。空間を貫くクラシカルな太い柱は、まるでどこかの王宮のよう。
水泳部には適わないが、水泳はけっこう得意な方だ。一年ぶりでテンションも上がる。
意気揚々と空気を吸い込み、そして……。
「……だる」
体調の悪さ、というかだるさを溜息と共に吐き出す。誰だってあるだろう、何もしたくないコンディションのときが。ひとつき遅れの五月病とも言う。
だから水泳なんて出来ません。
要するに見学です。要はサボりです。だから制服着用です。全方位が残念そうに目を逸らしたことは知らないし見てないし気付いてないぞ俺は。
午後最初の授業なためか、昼食を終えてすぐに着替え、すでに水着で準備万端な生徒がちらほら。SクラスとAクラスの二組合同授業なので、顔と名前が一致するまで時間がかかる生徒も何人か。
だがしかし気になるのは、服装がフリーダム過ぎることか。これは授業だぞ、とツッコミたいものばかり。
水着は基本自由ではあるけれど、必要あるかと問いたくなる派手なパーカーやTシャツ、それだけならまだしも頭に花飾りなんぞ乗っけてるヤツらは一体授業に何を求めているんだ。
面倒だが、あの校則違反どもに水を差さない程度に注意を促すべきだろう。
「授業に関係ないものは取り外していただきたいんだが」
おっと、適任者がいた。
お互いの花飾りを褒め合うという女子力カンストな会話を繰り広げる三人の生徒に割って入り、厳しい目で指摘したのはクラ……えっと、……クラスメートAだ。
いつもは眼鏡をかけているAなので、裸眼は新鮮だった。目元がややきつめだが、十分整っていると思う。クールフェイス。
ただ、その頭には水泳帽をきっちりかぶっている上に上半身は裸なので、迫力に欠けるというか、ギャグっぽい光景になっているのが残念だ。プールの授業としては何一つ間違っていないのに、ただただ残念だ。
生徒CDEは手持ち無沙汰に花飾りを弄りながら、「でも……」とか「だって……」を繰り返す。なんだその反応女子か。いい加減性別をはっきりしろ。
煮え切らない態度に痺れを切らしたのはAだった。離れたところからハラハラ見守っていた俺が、容赦してあげてと言いたくなる説教がAの口から繰り出される。
「そもそも、水泳帽はどうした。その頭のまま着水すれば泳ぐときに視界に入って邪魔だろう。衛生的にも良くない。真面目に泳ぐ気があるのか」
言い過ぎ! そして堅物すぎ!
気持ちはわかるが言葉が過ぎるぞ、団結した女子の怖さを知らないのか! 「機能性・衛生面重視!」とか言ってる場合じゃねえんだよ!!
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