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「……なんで僕らがダッサイ水泳帽なんかかぶらなくちゃいけないわけ?」
「君には関係ないでしょ? それともみんなが真面目じゃないと学級委員が減点されでもするの?」
「僕達別に、そんなガンバって泳ぐ気ないけど。最初のプールなんていつもそんなもんじゃん」
アイタタタ。やっぱりこうなったか。
まあ、授業自体が自由度高めだから羽目を外したってのもわからなくはない。ブーメランはいてくるガチ勢もいれば今回のように着飾ってくる生徒は多い。
むしろ、Aのようにちゃんとスク水を身につけている生徒の方が稀だ。
そのたくさんいる違反者の中で自分たちだけ注意を受けたことが、CDEには我慢ならないのも人間として仕方がない感情だろう。
三対一でAの方が不利だし、どう仲裁に入ろうかと足を向けたところで、ふと、Aと目が合う。するとAは少しだけ口の端を上げて、再びCDEに向き合った。
「……ほら、あそこにお前らが大好きな生徒会の役員が居るが。いいのか、違反だと指摘されても。まさか、副会長ともなる人間が規則違反を見逃すわけもないだろう」
そう来たか。
確かに俺がタイミングを掴めず出遅れたのも悪いが、まさかこんな形で巻き込まれるとは。
CDEはハッと顔を上げると、
「《光の君》!」
「違うんです、これは……」
「あの、光様はお着替えなさらないのですか……?」
「今日は見学致しますので」
「そおなんですかあ?!」
「あーん、残念……」
と、Aに対する姿勢を180度変えて俺を見上げる。微妙に話題変換もしてる。そんなCDEを眼中に入れずこっちを睨んでいるA。なんだこの状況。
ため息をぐっと抑え込み、俺は顔色を変えることなく、笑む。
視線を合わせるように少し屈めば、途端にCDEはぽっと頬を赤らめた。ハァイ三匹つれました。
「さて、身嗜みについてですが」
「あ……」
「校則に則れば、褒められたことではありません」
「こ、光様……」
「……でも!」
「でも、という言葉は適切ではないでしょう。一度省みることが必要です。そして、その飾り物は必要ありません。無くとも、貴方達は十分魅力的ですよ」
「……えっ、……そ、そっそそそんな……」
「す、すみませんでした!」
「今すぐにでも! 外してきます!!」
自分で言ってて思うけど、何故こんなキザな台詞がスラスラ出てくるようになってしまったんだろう。しかしCDEは駆け足でロッカールームへ向かったので結果オーライ。
Aがキツい言葉で注意してはからずとも悪役を担った後、俺が先ほどのようにやんわり諭すのはズルかった、かもしれないが。
Aに軽く会釈をし、傍を離れる。
そろそろ授業開始のベルが鳴る頃だし、俺は大人しく教師が来るまで待っていよう。
「…………八方美人が」
*
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