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 取り立てて問題もないウォーミングアップをぼんやりと眺めた。  双子みたいな飛び抜けた人気生徒には次第にゴツい野郎が準備運動しつつだんだん距離を詰め、系統の近い可愛い系・格好いい系・ガチ勢で固まっていく。  外から見ると全体の動きが分かりやすい。  リウは後者。  あれでも外面は良いから親衛隊同士の仲裁や相談役もやってるみたいだし、とことん同族嫌悪なのもいるが、意外にもネコ系と仲が良い。  手持ち無沙汰に人間観察に興じていれば、遠くの方でロッカールームのドアが押し開かれる音。  いまだ口論を続けていた古賀と藤戸氏、そして生徒が後ろを振り向く。 「すみませーん、遅くなりました!」 「……っす」  マツリ、それとマツリの友人であるA組の玖珂(くが)くんの堂々としたご登場。  俺はそっと両耳に手を添えた。 『 ~~~ッ!! 』 「かっ、格好いいよぉお……」 「《黒薔薇》様ぁ……僕いま本当にしあわせ……」  キャアだかワァだか判別のつかない歓声がプール内にこだました。跳ね返ってくる音の圧が耳に痛い。よく響くこと。  突然過ぎて驚いたらしい紘野はこっちを恨めしそうに睨んでいる。さーせん。  生徒会役員の上『別名持ち』の水着姿ともなればこんな悲鳴にもなる。これに会長やその他が混ざるともっとすげえぞ? 「こら綾瀬、玖珂ぁー! 遅れてきた理由はー!」 「髪型が決まらなくて!」 「……これに付き合わされた」 「よーしそれなら仕方ねえな!!」  この教師は良くも悪くも大雑把だ。  マツリ、と玖珂くんは一度古賀に頭を下げてから真っ直ぐ双子の方へ向かう。そしてノリでハイタッチ。  生徒会三人、その仲むつまじい間柄に周りの空気がそわそわしていることが遠目から見てもわかる。俺もちょっと和んだ。  しかし案の定、Aはマツリを見ながら顔をしかめている。生徒会役員のくせに堂々と遅刻したことがお気に召さないようで。 「準備運動は済んだか? 悪い、今日1日はコレの面倒を見てくれ」 「本当にすまない……俺も、泳ぎたいんだ……!」  柔軟を終えてクラス別に整列した生徒の前に古賀とオマケが並び立ち、簡単に今日の流れと注意事項をさくさく述べていく。  早く泳ぎたくてうずうずする生徒らは勿論説明など右から左。まあ、去年も水泳はあったし、専門のインストラクターも複数いるから然したる問題もないだろう。  

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