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何はともあれ、無事に見学中。
ちなみにピアスは校章が縫いつけられた胸ポケットに慎重にしまった。
一階の端にある見物席に紘野と並んで座る。
二階の観客席の方が眺めがいいし生徒と物理的距離もとれて快適なのだが、しかしそこだと紘野くんが確実に居眠りを始めてしまうので。
男の娘は固まりながら、野郎は個人で泳いだりナンパしたりと、皆自由に泳いでいる。
普通の50メートルプールはもちろん、温水も流れるプールも滑り台も地上から数メートルの飛び込み台まで何でもござれ。
何故たかだか学校のプールがここまでバラエティに富んでいるかについては、深く考えてはいけない。ここの敷地で無駄に豪華じゃない場所を探す方が却って難しいくらいだ。
「……やっぱいねぇな」
「さっきから誰探してんだ」
「ないしょ」
「……あっそ」
きょろきょろと視線をさまよわせる。しかし目当ての人物は見当たらない。
ちょっと物珍しそうに俺の横顔を見た紘野だが、結局追及はされなかった。
まあ、居ないものは仕方ないか。大人しく見学しよう。
「……って、あ!! おいあのドエム野郎、双子に近付き過ぎじゃね? 嬉々として水鉄砲浴びに行ってやがる!」
「お前は過保護か」
「ハラハラしてきた……。大丈夫か? ちょっと二人とも無防備過ぎねえか?」
「遊んでんだろ」
「そうかな……そっか……ならいいけど………お、いま横泳いだ奴ナイス妨害! 頭から水ひっかぶってやんの」
「アレ、綾瀬」
まじで。
紘野の言った通り、水中から顔を出したのはマツリで、双子に迫っていた野郎にごめーんと軽いノリで謝っている。
綺麗なストロークだった。身体の使い方も上手。さすが絶倫(たぶん関係はない)。
そしてその後ろからザバリと顔を出した玖珂くん。どうやら競争していたらしい。
いつの間にやら周りの生徒の注目を集めている。玖珂くんもファンクラブがあるほど人気な生徒だし、「泳ぎ方教えてください(はあと)」みたいな流れでそのまま逆ナンが始まる未来が容易に想像できてしまう。
とか思ってたらマツリと、それを見た近い方の双子……あっちはウミか。が、こちらに気付いて手を振る。そして遅れたソラも。
交互にぴょんぴょん跳ねる双子が微笑ましい。
手を振り返すと、この生徒会の輪から外された野郎がすごすご引き下がった。クク、計画通り……。
彼らは連れ立って滑り台に行くようで、さっそく双子が玖珂くんにひっついている。保護者を代表して頼もう。玖珂くん、お守りよろしくな。
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