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 人の目を俺から逸らすように、マツリが俺の一歩前に立ちはだかった。  まるで盾になってくれているような状況。俺を庇う背中に見覚えがあるのは、これが初めてではないから。 「はーい、注目。急に矛先が変わったみたいだけど、要は、副会長……オレの仕事仲間が、ひとりの生徒を助けたことが不満ってことー?」  そういう攻め方に出たか、と背後で舌を巻く。  俺、すなわち生徒会役員を大っぴらに責める声が上がるはずもないので、マツリの発言に同意する生徒はいない。  しかし、「一般生徒が生徒会役員に助けられた」ことへの非難は、裏を返せば「生徒会役員が一般生徒を助けた」ことへの苦情とも解釈できる。  例え違ったとしても、生徒会役員であるマツリがそう解釈した、という事実さえあればいい。  だから、生徒会役員への悪口、とマツリに納得される前に、文句を言った生徒はそれを今すぐ撤回しなければならない。  特に、普段砕けているマツリが言うからこそ余計相手に危機感を覚えさせるのだ。  ───"もう相手にしてもらえない"、という焦りを。 「《黒薔薇》様……それは誤解です……」 「僕達、決して生徒会の皆様方を非難しているつもりはありません……もちろん棋前くんも」 「うん、仲良くできるコはスキだよ」  キャ、と声が上がる。  ちらりとAを窺えば、信じられないものを見るようにマツリの横顔を見上げていた。  まさかマツリにまで庇われるとは思っていなかったんだと思う。  俺とマツリは先日のカンニング騒動の後で、A自身が生徒会への嫌悪をぶちまけた相手だから。  なあAよ。  お前の正論は確かにご立派だと思うよ。  だが今、こうしてマツリの詭弁で護られている気分はどうだ。  正論だけで相手を言いくるめられるほど人間社会は単純じゃないと、俺もマツリも、勿論双子も、会長もタツキも解っているからこそ、俺たちは生徒(ひと)の上に立っていられる。 「まあ、生徒会が基本的に『平等』なのは、周知の通りだね。でも、オレ達だって人間だから、ときには例外の日があっちゃダメなのかな?」  まさか! そんなことありません! と首をぶんぶん振る生徒多数。  相変わらず、自分の有効な使い方を熟知している。相手はネコ系、原因は嫉妬。マツリやバ会長ほどそれらの扱いに長けている人間もそういない。  ちなみに双子も今はマツリ任せだ。  あの二人はあの二人で自分の魅せ方を知っていて、この場で役目はないと知っているからこそ、今は口を噤んでいる。 「今日の騒動はその例外の延長上の、偶然起こったことだよ。これで証明されたよね、平等を謳う生徒会だとしても、今後、個人を特別扱いできる可能性があるってことをさ?」  その一言で、ネコ系男子の目の色が変わる。まったく、お上手で。 「ね、オレ達に、特別扱いされたくない?」  何人くらい倒れたかな。  

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