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「俺はこれでもほんのちょっと腹を立てているんですからね。リオ様にも、自分にも」 「自分に、といいますと」 「今回貴方様と俺のクラスは合同授業でしたが、俺は出席を遠慮していました」 「確かに、居ないなとは思いましたが……」 「気付いていらっしゃったのですか……あ、いえ」  嬉しそうに声を弾ませた頼は、我に返ったのか取り繕うようにこほんと咳払いをした。  頼の優秀な成績や生活態度や人気を考えるとSクラスでも不思議ではないのだが、何故か彼はAクラスに在籍している。  クラス落ちするような問題行動があったとも聞いていないし、わりと謎な部分である。クラス替え自体の基準が特殊なので、想像したところで正確なところはわかりようもない。  優等生との評価を受ける頼が何故いないのだろうと、プールの見学ついでに軽く探してはいたのだが……ただ、クラスメートAの飛び込みの一件でその思考は吹っ飛んで、今の今まで忘れてた。 「今回、貴方様はけっこう、無茶をしたでしょう?」 「別に無茶というほどでは……私だって泳げますし……」 「無茶なされたでしょう」 「……どうせ無茶しましたよ」 「……拗ねないで下さいよ。もしや狙ってやってます? 強く出れなくなるじゃないですか」  拗ねてねえし狙ってもいない。  納得いかないまま先を促すと、頼の方こそ拗ねたような表情で続きを吐露する。 「もし、俺があの場にいたら、貴方の手を煩わせる前に俺が棋前(きさき)を助けて騒動を片付けられました。だから、その場にいなかった自分自身に、腹が立つんです」  Aの名字が棋前だと知ったのはつい最近だ。あのとき自分がAのことをうっかりAと呼んでしまったことを反省し、ちゃんと調べまして。  下の名前にはいろいろ運命を感じたのだが、今は割愛。 「あー……心配をおかけしてスミマセン」  ヒーローのように華麗に救出して称賛される頼の姿がすぐに想像できた。  生徒会に特別扱いされてどうのこうの、といったプチ騒ぎを起こした俺より、よほど手際よく場をおさめられたんじゃないかと思う。  頼ほど運動神経に恵まれた人間に、俺は同年代で会ったことはない。  別に無茶してねえけど、俺だって水泳得意だけど、後のことを考えれば俺の行動はちょっと、考えナシだったかもしれない。  だってあんなプチ騒動になるとは思わなかったし、写真部があそこまで賑わうとも予想外だったし。 「まあ今回はあの会計さんが気の利いたフォローをしてくださったようで安心しました。べっつに羨ましいとか思ってませんけどね? 俺なら棋前もろとも貴方様を抱え上げて救出できましたし」 「……あ、なたも拗ねてるじゃないですか…」 「拗ねてません」  自分が同性に抱え上げられている姿を簡単に想像できるのも、相手が頼だからだ。  学園で唯一、俺を、まるで、"オヒメサマ"のように扱う、おとこ。  背中がむずむずする感覚。それを面に出さないよう、ポーカーフェイスを意識する。  

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