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「それにしても、Sクラスとの合同授業を欠席した後、すぐにこうやって報告会ができて助かりました」 「……何か緊急の問題でも?」 「いえ。ただ俺が、一刻も早く会いたかっただけです。貴方に」 「……」  もう少しで荒れるところでした、と、照れくさそうにはにかむこいつを見て、身体の中を微弱な電流が走る。  衝動的に顔を逸らしかけて、顎の筋肉に意図的に力をいれた。 「そう、ですか」 「親衛隊の報告会は月に一度しかありませんからね。ここ以外だと、貴方様と気軽にお話できませんし」  さらさらと言葉を続ける頼の表情はご機嫌だ。さっきまでの拗ねた顔が嘘のよう。  親衛隊には暗黙のルールがある。  それは、「誰の親衛隊隊長が誰か」という情報の守秘と、詮索の禁止だ。  隊の中には例外もあり、自ら公開しているところもあればウワサで知ることもあるので完全なる秘匿とは言えないけれど、頼には隠すようにと俺からお願いした。  こいつが俺の親衛隊だと周りに知られると、けっこうな人数を敵に回しそうなので。  だから頼が言う通り、こうやってこそこそ会わないと気軽に会話もできない。クラスも違うから、こういう場でもない限りめったに話さない。  タメ口を勧めるのもそれが理由だ。生徒の前でうっかり敬語を使えば関係を疑われかねない。  気軽に会えない・話せないことはちゃんとわかっている。  それにしたってもう少し……手加減、してくれないだろうか。 「……、あ」 「予鈴、鳴ってしいましたね。もう少し、貴方様とこうしていたかったんですが……」  と、ここで昼休憩の終わりを告げる鐘が大きく鳴り響く。ふっと伏せられた瞼、哀愁漂う表情は一枚の絵画のように様になっているけれど、たかだか昼休みが終わっただけの事象に現れていい顔じゃない。  早く教室に戻ろう。この空気は不味い。そう判断し、勢いをつけて立ち上がった途端。 「ぁ、いた……っ」  すっかり忘れていた足の痺れにかくんと膝の力が抜けた。数歩よろめいたところを、すかさず頼に難なく支えられる。  大きな手が肩を抱き、背中に回った力強い腕がゆっくりと、俺の身体をまっすぐに正した。  まるで騎士のように俊敏な動きで。  けれど硝子細工に触れるように、柔らかく。 「大丈夫ですか? お怪我は」 「……だ、だいじょうぶ、です」  うわ、うわ。  いい年して正座のし過ぎで転ぶという醜態をさらさずにすんで助かったものの……なんだ、この状況。  同性としてすごいと認めずにはいられない、このスマートさ。  しかし助けられる対象が自分であることに言いようのない羞恥を覚えた。お気をつけて、と耳元で囁く優しげな声が砂糖菓子より甘い。  こくこく、と頷いてすぐさま距離をとる。  

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