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「それでは……リオ様、」
早くこの部屋から出よう。ポーカーフェイスで。そう自分に言い聞かせながら扉へと進めていた足がピタリと止まる。
ぎぎぎっと、音が出そうなほどかちこちになった頭を動かし、慈愛という単語を煮詰めたような目で俺を見下ろす頼を、見上げた。
「ご安心して、お過ごし下さいね。───何があっても、御守りしますから」
スッと胸に手を当てて頭を下げる、手本のような流れる所作は、まるで洗練とした執事か、忠誠を誓う騎士か。
少なくとも良家の人間が一般庶民にするものではない。
あまりにも様になる礼を受けて、そしてためらいもなく告げられた台詞を受けた、俺は。……見られないようにと、片手で顔を覆った。
限界だ。もう、無理。
諦めた瞬間、かあ、と自分の頬が熱を帯びたことがわかった。
同時にポーカーフェイスも総崩れる。
顔を横に逸らすほかなかった。こっ恥ずかしくてとてもじゃないが耐えられない、この雰囲気。多分に甘さを含んだ空気。
自分をまっすぐ慈しむ、その声。その瞳。
「…………その、……いつも、気恥ずかしいのですが……」
こういうストレートな言葉を真っ正面から頻繁に向けられてはいるんだけれど、何度言われても、俺みたいな素直とは無縁の人間には、その。なんというか。
そう。慣れない。
この反応を上目遣いで見ていた頼は悪戯っこのように笑う。確信犯だ。
「いつものことでしょう? 貴方様も、なかなか治りませんね?」
「………敬語」
「……」
固まった頼を置いて、失礼しましたと一礼してすぐさま部室から撤退。
あとで施錠はする、だからひとまず今は敵前逃亡を許してほしい。
廊下の角を右に曲がり、左に曲がり、さらに左に曲がり、人目につかない階段までくると手摺りをぎゅっと握って。
「……、くそ恥っずい!!!!」
あーとかうーとか叫び出したい衝動を、悪態ひとつでなんとか押さえ込んだ。
なんかもう、自分が恥ずかしい。
ストレートに向かってくるあいつからの全力の好意にいちいち困ってる自分がすごく恥ずかしい。
俺の親衛隊の、隊長さんは。
真面目で堅実な性格に加え、甘いルックスに長身、優等生で周りからの信頼もあつく、成績優秀で運動神経抜群、さらに育ちの良さなどなどとんでもないハイスペック要素を盛り込んだ人格者、でありながら、同時に。
俺の羞恥心を煽る天才でもある。
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