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*  SHRを終えた直後の放課後の教室。  不測の事態というものはいつだって心の準備ができなくて困る。 「なあ、ソラとウミはいるかーー!?」 「「!」」 「あっルイだっ!」 「どしたのっ?」 「前読んでみたいって言ってた漫画! 持ってきた!」 「わあ、うれしいー!」 「わざわざありがとー!」 「「ルイすきー!」」 「いいって、この前ふたりにはお菓子もらったし!」  教室前方の扉からサッと顔を背ける。  賑やかだった放課後のクラス内が、心なしかピリリとひりついた気がした。  学年最上位枠のSクラスとあって品のない罵詈雑言が耳に届くことはないけれど、和気藹々と双子とお喋りを始める王道へ向けられる数々のプレッシャーが見なくとも何となく予想できる。  三人の会話を聞く限りでは、漫画の貸し借りの約束をしたりお菓子をあげたり(双子は実は菓子作りが得意だ)と、友好的に交流を深めているらしい。  肉欲込みの惚れた腫れたが当たり前のように繰り広げる学園生と比較すれば、彼らはごく一般的な意味の「おともだち」の関係が成立しているようで、あれはあれで俺はいいとは思う。  遠巻きに見られがちな生徒会が孤独になりやすいという環境認識も、まあ概ね正しい。  王道と仲睦まじくじゃれる双子は本当に楽しそうだし、交流を広げることは別に悪いことじゃない。  俺に火の粉が飛ばない限り。 「ねえねえあれ副会長的にはどうなの? 『私を差し置いてルイと仲良くするナンテー!』って邪魔しに行かなくていいの??? そのまま王道総受けルートを目指そうよ」 「……。誰が誰と仲良くしようが個人の自由で個人の責任でしょう」 「ならなら、『生徒会の仲間がルイばっかり構って仕事も手につけなくなって、私サミシイ……』ってならない?? あ、これは非王道パターンね」 「どこに寂しむ要素があるんです? それに、仕事ならちゃんとやってくれてますよ」  俺の席の近くに寄ってきていたリウが俺に謎の揺さぶりをかけてくるのだが、一体何を期待しているんだお前は。  一度灸を据えて以降、さすがに悪いと思ったのか双子(ふたり)は補佐としての職務をきっちりこなしている。  元々双子はわんこと同じく仕事に積極的に関わるタイプだ、復帰後も特に問題はない。  他人の色恋沙汰や交遊関係に首を突っ込む気は俺自身サラサラないので、やることさえやってくれていれば何の文句もない。それこそ二人の自由で、二人の責任だと思う。 「……ええーつまんなーい」 「あなたが不満そうで何より」 「王道クン相手は仕方ないにしても、生徒会仲間にはもうちょっとウエットな態度になってくれてもいいのにぃ」 「ただの仕事仲間ですから」 「わービジネスライクーって感じー」  そう言われてもなあ……。  同じ組織に所属し、クラス活動や寮生活を共にしている以上ほどほどに良い関係を築いているつもりだけれど、やはり仕事仲間は仕事仲間の領域を出ない。  一端の共同体意識はあれど、所詮は名ばかり。  今まで生きてきた世界が違う、価値観が違う、ものの見方が違う仮初めの「仲間」に、ドライもウエットも不要だ。  そう言いきると、リウは鼻白んだ顔になり、俺から王道たちへ意識を戻した。そして目があった王道に向かってちいさく手を振りやがった。おいやめろ。ほんとやめろ。 「リオにリウ!」 「……リウ覚えてなさい」 「いたっ。目があったからには無視できっこないでしょ。わざとじゃないもーーん」  こそっとリウの手をつねる。余計なことを。クラスの出入り口からずんずんと俺の席があるところまで踏み入ってくる王道は、クラスメートの非難がましい態度もどこ吹く風。  度胸というか図太さというか、良くも悪くも転入したての一年生とは思えない我が家感。  双子もついてくると思いきや、王道が持ってきた紙袋を抱えてるんたったーと帰ってしまわれた。  今日は夕方から夜通し大雨との予報で生徒会はオフにしたので、その足取りは非常に軽い。  俺も帰りたかったのだけれど……。 「なんだか二人と会うの久々な気がする!」 「ふふ、大袈裟だよぅ。こんにちは、佐久間くん」 「……こんにちは、ルイ」 「おう!」  王道の主観では「久々」らしいけれど、最後に会ったのは先々週のカンニング騒動以来なので、俺の中では記憶に新しい上に濃い。  

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