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 王道の溌剌とした感想という名の挨拶に、リウは瞬時ににこにこと温和そうな表情を作り出す。  この猫かぶりが。  頼む王道、ここでリウに「嘘の笑顔貼り付けんなよ!」って言え。大丈夫、お前ならいつか見抜けるって信じてるから。 「リウ、名前で呼んでいいっていつも言ってるだろ? 友達なんだからさ」 「えへ、いざ呼ぼうとすると照れちゃって(別に友達じゃないから今後も呼ばないけど)」 「はは、別に照れなくていいのに! 可愛いなお前!」 「僕なんて全然……佐久間くんの方がカワイイよ(とりあえず褒めとこ)」 「別に可愛くなんかねえよ!」 「照れなくていいんだよ?(はいはい)」  堂 々 と 嘘 を つ く な 。  白々しく笑うリウの隠した副音声がだいたい透けて見える。そしてさりげに控えめな自分アピールが巧みだこと。 「あっ、そーだ! 二人は今から暇か?」 「「、えっっっと」」 「リオは暇だよな? ソラとウミが、今日は生徒会ないってさっき言ってたぞ!」  生徒会室での業務はオフだけど仕事自体はあります。だから寮に持ち帰ってやります。だから暇ではありません。  この三文をどう簡潔に穏便に波風立てずに纏められるか、頭の原稿用紙をすぐさま引っ張り出す。王道からのお誘いだ、『副会長』としての外面をキープしたまま断るには手強いぞ。  「ああそれが……」といかにも残念そうに切り出す俺の視界、王道越しに見えた後方の扉に人影。待ち人の訪れに気を取られて頭の原稿用紙には消しゴムがかけられてしまった。  やっと帰ってきやがったな。 「……紘野。遅いですよ」  呼び掛けると、黒い瞳が俺を見る。  荷物を机上に放置したまま5限目くらいからサボってた紘野さん、ようやくお帰りである。  俺に荷物の守り番をさせておきながら(だから今の今まで帰るに帰れなかった)こんな時間にのこのこと。  なにやってたのお前。  なにしに学校来てるのお前。  つーかまじで出席大丈夫なのお前。  まあしかし、今回ばかりはお咎め無しにしてやろう。おかげで、王道の注意が俺とリウから逸れるのだから。 「あ、ヒロノ! どこ行ってたんだよ」 「……」 「まさか授業サボってたのか!? おい、聞いてんのか!」 「……」 「なあ……ヒロノッ」 「………」 「っっ、無視すんなって!」  周りの視線を集めながら無表情のままこちらに近づいてきた紘野を相手に王道が猛追するも、結果はこの通り壁打ち状態。  俺やリウみたいな上っ面の友好と紘野の完全なるシャットアウト、果たしてどちらがマシなのか。  紘野のコレは今に始まったことでもないので、王道もそろそろ懲りたらいいのに。何度呼びかけようとも、紘野は他の生徒とは違って、粘っても多分ムダだぞ。  受け入れるわけでも無難にやりすごすでも拒絶するでもなく、無反応。無関心。  なんつってたかな。以前気になって聞いてみたとき、王道のことを「羽虫」に例えてたっけ。  つまり気分によってはウザいと思う存在だが、どうでもいい気分のときはひたすらどうでもいい相手、らしい。紘野曰く。  そもそも俺の認識上、壱河紘野くんとはそういう男である。  気まぐれで、不良で、S属性。  その上で、人間性という点で欠落している部分がある。  ───"興味関心"の著しい欠如。  それもある意味、個性と呼べるだろうか。  

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