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「オレのことを避け……てるとかじゃないんだよな?」
さすが、双子を一発で見抜く直感の鋭さは伊達じゃないよなと思う。王道がただの鈍感野郎ならいくらか楽だった。
無論、言い当てられたところで易々と言い詰まるようじゃ腹黒副会長の名折れだ。そう簡単に本心は捕ませてやらない。
「避けているつもりはなかったのですが、そう見えたなら申し訳ありません……最近は、特に忙しくて」
「そっか……まあ、無理すんなよ!」
困った顔で微笑めば、俺の手首を捕まえていた王道の手が緩んだ。解放されたことで手のひらへと血が巡り、じんわりとした痺れをもたらす。
忙しい、との言い訳はその場しのぎの常套句だが、別に嘘ではない。よって、故意に避けているわけでもない。
午前午後はフルで授業があり、昼休みと放課後に至ってはこれから控えるどでかい行事を迎えるにあたって通常業務を前倒しで片付けているため生徒会室に毎日缶詰め。わざわざ避けずとも会う暇なんてないのが実情。
しかしいくら何でも毎回同じ手が通用するほど王道が究極な鳥頭だとは思っていない。
断る言い訳に「忙しい」は、多用しがちだ。
いっそ王道が部活なり園内アルバイトなり始めて放課後の時間を潰し、無自覚男漁りができない状況になってくれたら楽なんだがな……物事そう上手くはいかないか。
綺麗に一礼することですべて丸くおさめたことにしておき、Aと共に教室を出て、やっと訪れた解放に安堵の一息を吐いた。
* * *
「「「………」」」
副会長がその場から去った後、残った三人はしばしその場に立ち尽くしていた。
じ。と、教室から去る背中を探るように推し量るように追っていた少年の眼差しは、その分厚いメガネと重たげな髪によってすっかり覆い隠され誰にも見られることはなく。
しかしすぐさま気持ちを切り替えた少年は、捕まらなかった副会長を諦め、残った二人へと焦点を絞る。
一人とはすぐに目があった。
柔和な笑みを浮かべた栗色髪の少年に満足し、こちらからも笑みを返す。そしてもう一人へと、視線を投げた、が。
その男と目が合うことはなかった。
「……ヒロノ?」
男は、そう呼ばれても顔を向けない。視界にすら入れない。
自分の下の名を初対面で勝手に呼び始めた少年からの呼びかけには勿論、ある程度交流があるはずの栗色髪の少年から向けられた視線にすら、応えようとはしない。
微妙な沈黙すら意に介さず、男は荷物を肩に引っ掛け、周りの注目を最初から最後まで眼中に入れることなく教室を去った。
この教室という空間に居続ける必要も、理由も、興味も、すでに無くなったとばかりに。
「え、ヒロノ……!? ま、待てって!」
後ろから名を呼ばれ引き止められても、当然彼が足を止めることはなく。
その声はなんの足枷にもならず。
「……あいつ、急にどうしたんだ…」
唐突に、話しかけにくい雰囲気になった。
少年は、自分が男の纏う空気にひるんだことを自覚する。
(リオがいるときは、普通だったのに)
困惑する少年を尻目に、その背中を目で追っていた栗色髪の少年はひっそりと、微苦笑を漏らした。
壱河紘野という人間は、別に、この世のあらゆるものすべてに無関心、というわけではない。
ただ、単に。
彼の関心が及ぶ範囲が、極端に、狭いだけ。
* * *
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