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ひとまずは、たびたび反発を向けられていたAと無事に和解できた……という認識でいいのだろうか。喧嘩した覚えすらないけれど。
俺の方は一件落着。
しかしAの方は、まだ問題が残っている。
多目的教室の扉にぺったり張り付く頭が3つ、窓の下から覗いている。
本人たちは上手く隠れているつもりなんだろうが、実のところ移動中の段階でつけられていることには気づいていた。
クラスメートCDE。Aに服装を注意された腹いせに、プールに飛び込むよう仕向けたと思われる三人組。
覗き見はセーフ。途中で妨害しなかっただけ良しとしてやろう。
「A。教室の外、気づいてますか」
「……ああ。自分が先に撒いた種だ。自分で回収するさ」
迷わずきっぱり言いきる潔さが「らしい」なと思って、薄く微笑む。
そっちの「誤解」も、解けるといいな。
ちゃんと話せば、お前がほんとはいいヤツだってこと、あいつらもわかってくれるからな。
生徒会の俺が仲介するとかえって萎縮してしまうだろうから、これ以上の干渉はしないでおこう。
あとはあの三人に場所を譲るのみ。
Aの心境としては試練続きなんだろうけど、プール開き後のCDEの沈みきった態度から見る限り、そう拗 れることはないと思う。
堅物とのイメージをクラス内で持たれているせいでひとを遠ざけがちなAだけど、きっとこれから少しずつ変わっていく。
この一件が、ほんの小さなきっかけになればいい。
「それはそうとだな…………あの」
「何でしょう、A」
「その……エー、って発音は、わざとか? わざと伸ばしているのか?」
どこか気恥ずかしそうな様子で、おずおずと尋ねられた問いかけ。
俺はにっこりと悪びれもなく笑った。
「何かご不快でしょうか」
「そういうわけではない、が……一応言っておくと、俺は詠 、だぞ」
「だからA でしょう?」
「なんとなく違う気がする……」
クラスメートAの本名。棋前詠 。
詠。A。
学級委員長、と呼ばれることが多いAの名前を知ったのはつい最近。それまでずっと心の中でAと呼んでいた相手の下の名前が詠となると、もはや奇跡以外のなにものでもない。自分の中でもAはAで定着してしまったので、今さら棋前とか呼べない。
「もしかして、名前で呼ばれるの、嫌いですか……?」
ああでも、相手が好んでいない呼び方で呼び続けられるのはある種のイヤがらせだな。下の名前を呼び捨てにされるのが苦手って可能性もある。
俺も関わりの少ない相手から親しげに呼ばれるのはあまり好きじゃない(例:王道)。
嫌なら遠慮する。
心の中だけでそっと呼ぶ。
しかし、そろりと顔色を窺ってみれば予想外にも、髪の隙間から見えるAのその耳は少し紅くそまっていた。
ふいっとそっぽを向き、唇をつんと尖らせる典型的な仕草はまさに。
「……別に嫌いというわけではない」
お前もしやツンデレ?
A、お前ってもしやツンデレなの??
メガネで堅物でツンデレなSクラスの学級委員長って、そんな属性過多で大丈夫???
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