206 / 442

平行線を辿る 1

* * *  この学園には上下関係における単純明快なシステムがある。  頂点に君臨するのは理事長、並びに学園理事会。  次点が、生徒会。  そして次が、風紀委員会。  それから学園長、教員、続いて各委員会の代表や役職を持つ生徒が名を連ねる。  しかし本来、教師と生徒の橋渡し程度の役割でしかない生徒会や、委員会のひとつでしかない風紀が教員よりも上位の立場になることは、普通、ありえない。  実際、数年前まではこの学園だって、教師と生徒の立場はしっかりと線引きがされていたらしい。  では何故、今のこの学園では、生徒会と風紀がここまで上位の地位を得ているのか。  その理由は至極単純。  ────『現生徒会会長』と、『現風紀委員長』両者の家名が、桁外れの権力を持つからだ。  現日本を支える五大財閥のうちの二柱に数えられる『神宮』と『志紀本』。  彼らが学園という小さな世界でトップに立つことは、御曹司という枠組みの中の上下関係を心得た生徒たちにとって当然のことで。  その上、才色兼備で他とは一線を画するカリスマ性。彼らがただの親の七光ではないからこそ、不満を持つ生徒など無きに等しい。  故に、彼らは目立つ。  誰もが欲しがるその権力。  誰をも惹きつけるその存在。  彼ら二人を味方につけることができたなら、学園など、いともたやすく支配できよう。  しかし、それを実行しようとする者はいない。  どれほど金に強欲な人間でも、両者のファンを兼任する親衛隊でも、まず、どちらの『陣営』につくかを先に決める。  誰もが言う。間違っても、彼らが衝突する原因が己にならないように、と。  誰もが言う。あの二人の確執に巻き込まれることだけは御免だ、と。  彼らは、『仲が悪い』。  それは要らぬ喧嘩を売ったり相手に暴力を振るうような分かりやすい『仲の悪さ』ではなく、彼らは互いに対し徹底的に、無関心の姿勢を取る。  だが、互いが互いを心底嫌っていることなど、入学したての人間ですら暗黙のうちに知っていることだ。  知った上で、学園の生徒たちは、彼らの対立を何より恐れている。  『仲が悪い』。  彼らが互いに無関心を貫き続ける限り、その関係は前進も後退もせず、平行線を辿り続ける。  ───そう、思っていた。  これからもそうあり続けると、信じて疑わなかった。  あの瞬間を見るまでは。 * * *

ともだちにシェアしよう!