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*  この場における、俺の使命は。  ひとつ、司会進行。  ふたつ、生徒会へ寄せられた質疑への応答。  そして、みっつ。  生徒会会長と風紀委員長が、「会話をする」「長く目を合わせる」「互いを認識する」という状況を出来得る限り作らないよう努めること。  必要以上の接触を、全力で阻止すること。 「それでは───……《月例会議》を始めます」  本館最上階・大会議室。  マホガニーの艶のきいた楕円形の机を囲み、各役職の代表が等間隔に座す。  会議の参加者は『役職持ち』が10名と、オマケが1名。  ──寮監長代表のツバキ先輩。  ──広報委員長の伊勢慎吾(いせ-しんご)さん。  ──体育委員長の佐々部さん。  ──図書委員長のフィン・クラン先輩。  ──保健委員長の二葉先輩。  ──美化委員長の矢島緤(やしま-せつ)。  ──風紀委員長の志紀本先輩と、その隣に控えるのが風紀副委員長の園陵先輩。  ──そして、風紀とは対角の席に座す会長。それから俺。計10名。  ちなみにオマケとは、会議室の端っこの椅子にだらしなく凭れてぐうすか寝てるのが生徒会顧問の藤戸氏のこと。あれに関してはただの部屋のオブジェと認識している。 「まずは各委員会の定期報告から、順番にお願い致します」  俺はといえば席を立ち、会議室前方にあるスクリーン横のスタンディングデスクの前に居る。  ぴりりとした空気の重さに緊張感を覚えつつ、平素と変わらない声を意識して、噛まないように気をつけて、司会進行の役割に徹する。 「こちら体育委員! 委員会の方は特に大きな問題はない。が……一ヶ月前ほどから一人の生徒が俺の頭を支配して、食事も喉を通らないんだ。これはどうすればいいと思う?」 「知りません」 「考えれば必ず解決策がある! 頼む、他の皆も考えてくれ!」  しかしトップバッターの委員会の代表そのものが頭痛案件で気が滅入りそうだ。  黙れ脳筋。喋るな単細胞。  頼むから空気を読んでくれ。いや、この場合は敢えて空気を読んでいないタイプなんだろうが、どちらにせよ相談内容がまあ酷い。  こんなクソ忙しい時期に性懲りもなく王道へのアプローチ(仮)という名の部活勧誘を佐々部さんがまだ続けていたとは思っていなかった。つーか柔道部はそろそろインターハイ予選決勝だろ。稽古はどうした。 「いっそ減量したらどうですか」 「確かに……喉を通らないならそもそも食べなければいい話だな!」 「無事解決ですね。さあ座って下さい」  舌打ちしたいのを心の中に留め、妖怪筋肉ダルマを半ば無理矢理座らせた。体育委員長の恋愛相談(仮)とか死ぬほどどうでもいい。  

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