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月例会議の議題はおおまかに分けて3つ。
まず1つめは恒例の、各委員会による近況報告会。
そのひと月のあいだに起きたヒヤリ・ハットだったり、要望や共有したい事柄だったりを細かく整理して報告書にまとめ、必要によってはこの場でディベートする。
───というのが本来の月例会議の理想なのだが、ここには最短で討論を切り上げたい人間ばかりが集っているため、極力『問題なし』以外を発言したくないのが参加者ほぼ全員共通の本音である。
風紀とはすでに園陵先輩と俺で話を通しているのでやり取りは簡略化できる。
あとは風紀以外の委員会の報告を聞いて、内容によっては検討・改善を行う手筈だが、個性豊かな『役職持ち』、佐々部さんみたいに俺の疲労を蓄積させるタイプもいるから油断ならない。
「では、次の委員会の方、」
「ひゃい! 広報にも異常はありまてん!」
盛大に噛みなさった。
がたっと勢いよく起立したせいで椅子が後ろに倒れてしまい、元々青かった顔色がさらに生気を無くす。
広報委員長・伊勢さんは傍目にも分かるほど志紀本先輩を慕っている反動か、会議での志紀本先輩の雰囲気に慣れなくていつもガチガチに緊張している(園陵先輩情報)。
ピンク頭で、上背はあるものの童顔な印象を受ける見目。俺と目があった途端ビクッと肩を跳ねさせるのはいつものこと。
ちなみに伊勢さんは普段は明るい人だが、俺の前では何故か畏まる。何故か怯えられている。まあ細かいことは今はどうでもいい。
そそくさと倒れた椅子を起こして座り、身体を極力ちいさくして縮こまる伊勢さんから全員の注目を逸らすよう、次の委員会に発言権を移す。はい次の方、どーぞー。
「次は、クラン先輩。何かお変わりは?」
「図書委員会でも二人と同じく、これといって活動に支障はないよ。ただ、最近は図書室にも関わらず声を抑えない困ったちゃんがいてね。何か解決策はあるかい?」
毛先が鎖骨にかかる長さのプラチナブロンドを揺らし、深いサファイアを縁取る眼を細めて、フィン・クラン先輩が苦笑を零した。
小鳥の囀ずりにも似た美しい声は流暢で、憂いを帯びた表情は一枚の絵画のように美しい。
外はどしゃ降りの雨なのにどこからか天使の梯子が差し込んだような、摩訶不思議なお貴族様オーラが彼を取り巻いている。まあ、本当に本場のお貴族様らしいけど。これも園陵先輩情報。
というか……その困ったちゃん、誰だか予想できた。どうせ王道あたりだろ。
「入室を禁じろ」
「横暴ですよ、"委員長"」
くちを挟んだ志紀本先輩が珍しく無茶を言い始めたのですかさず止める。
すると含みのある流し目をこちらに寄越され、俺は反射的に視線を下げることで逃げた。
……ああ、いやだな。
すうっと冷めきった先輩の顔。その冷たい色味が際立たせる、温度のないひとみ。
今の発言が王道を庇ったものだと判断されたのか、単に"委員長"という呼び方が気に入らなかったのか、それとも……───会長の手前、わざと呼び方を変えたのだと、察したか。……察したんだろうな。
他の参加者も、志紀本先輩が初めて口を開いたことで少なからず動揺の波紋が広がっている。
深く息を吸う。平常心を心がける。一挙手一投足が、心臓に悪い。
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