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志紀本先輩が会長を視界から外し、俺を見て、ゆっくりと切れ長の目が細められる。
先ほどまでの無機質なものとは違う、いつもとさほど変わらない、意地の悪さを潜ませた表情。面差し。温度。
会長と目を合わせていないという変化だけで、これほど受ける印象が変わるとは。
「本意ではないと言うのなら、当然、打開案はあるんだろうな」
あったらこんなに苦労してないって、知ってるくせに……。
「……親衛隊会議で制裁などの不穏な提案が出されても許可しないよう、隊長たちには通達しております」
「例の一年が問題を起こすたびに挙がる制裁話を毎回隊長格に阻止させる気か? 抜本的な解決方法とは言い難いな」
…………うっ。
「……しかし、生徒会が牽制したところで逆効果にしかなりません」
「隊長格だろうと生徒会だろうと、どちらにせよ上の者が抑えつければいずれ暴走することに変わりはない。無理やり制御することが最善だと誰が思う?」
………ぅぐぐ。
「けれど、一時の時間を凌ぐことはできます。そうすれば……」
「問題そのものも自然に沈静化すると? 投げやりだな、副会長サマ」
「………べつに投げてません」
「どうせお前のことだ。生徒会が下手に介入すれば余計に暴走するから、という正統性にかこつけて常に一歩引いたところに居るからこそ、そういった他力本願な思考になるんだろう」
図星すぎてぐうの音も出ない……。
何を言おうともすぐに論破される会話運びに、去年のスパルタ指導が思い起こされる。
この人の指導の九分九厘は鞭だった。
園陵先輩も同じことを思ったのか、俺と志紀本先輩とのやり取りに雰囲気が少し柔らかくなる。和んでる場合じゃないです、と伝えたい。
俺だって、今並べ立てた案が最善とは思わない。
個々の親衛隊の幹部クラス並びにそれらを束ねる《総括隊》の大多数は暴徒を好まない『穏健派』だ。だからこそ選ばれると言っても差し支えない。
親衛隊上層部は今までだって、末端の隊員が問題行動を起こさないよう尽力してくれている。その上でさらに彼らに隊員の抑圧を課すのは、自分でも酷だと思う。
所詮は俺にとって、他人事の領域なのだ。
きっと先輩には見抜かれている。元より俺が親衛隊の存在や在り方にいい感情を持っていないことも、先輩は知っている。
知った上で、俺をこうして追い詰めていじめ倒しているのだ。そういうひとなのだこの圧倒的ドSは。
「───代替案だ。以後、生徒会役員全員。例の一年との交流を一切絶て」
一頻り俺を言い負かしたあと、持ちかけられた提案に、『役職持ち』の多くが「え、」と声を漏らした。
俺も驚いた。暴論だと思った。
けれど、よくよく考えると。
王道と生徒会に関わるごたごたを一掃するための提案としてはおそらく、単純でありながらも一番手っ取り早く、一番効果的な方法だとも思う。
けれどまさか、この場でそんなことを言われると思っていなかった。
こんな───俺に都合のいい、提案を。
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