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 ピシャ、と窓の外で、稲妻が空を切り裂いた。  遮音性だから音までは聞こえなかったが、参加者の数人がびくりと肩を揺らす。緊張のあまり気にならなかった外の荒れ模様を、途端に意識してざわざわと腹の底が不安で疼き出す。  体感温度が一気にマイナスへ。  再びひどく冷めきった表情に変わった志紀本先輩が、俺の横の会長を見据えた。 「俺が納得するだけの理由は」 「親衛隊の暴走が止まるのも、生徒会が自制するのも、結局は全部、風紀の都合を優先した根回しだろうが」 「それで学園の均衡をはかれるなら文句を言われる筋合いもないが」  会長が緩慢な動きで足を組む。  それだけの動作だが、今この場での発言権の最高位たる人間の一挙一動に周りは小さく息を詰めた。  空気が、急激に張りつめてゆく。 「その均衡とやらは上っ面の仮初めでしかねえ。俺達が例の一年と交流を絶った、という行動だけで憶測して、少数だろうが生徒は動く。対策を立てようがどの道手遅れなんだよ」 「少数は少数でしかない。切り捨てろとまでは言わないが、現時点での生徒会が優先すべきは、大多数の不満への早急な対処だ」 「だからそれが、もう手遅れだっつってんだろ」  双方の意見とも、理解はできる。  大多数の生徒が抱く不満の解消をまずは優先して、生徒会の誠意を示せという先輩の意見も正しくて、しかしその対策によって「佐久間ルイのためにまた生徒会が動いた」と考えた一部の生徒が再び暴走を……という悪循環がすでにできあがっていると指摘する会長の意見も、正しい。  何も今回の事例に限った話ではない。  もしこの提案を一度飲んでしまえば、生徒会は今後も、清廉潔白な人間付き合いを義務づけられる。常に一般生徒の顔色を窺う必要を課せられる。  会長が何をどこまで考えているかは知らないけれど、会長の弁を借りるなら、確かにもう手遅れなのだ。  この学園の"非常識"が、常識としてのさばっている以上は。 「手遅れならいっそのこと、生徒の考え方を根こそぎひっくり返した方がまだ潔い」 「無謀なことを。この学園の生徒会会長は全校生徒総数を数えたこともないらしい」 「全校生徒総数はおろか顔も名前も把握した上で、手堅く元通りを目指すお前のやり方は手温いと言っている」 「無責任の一言に尽きる。貴様の勝手な思想に一般生徒が巻き込まれる必要はない」  だんだんと、互いへの言葉の節々にトゲが紛れ込んできた。  しかしどちらも生徒のことを考え、淡々とした声で自分の主張を通すのは同じ。まるで冷戦だ。俺、この戦争が終わったら…………なんて死亡フラグは全力で回避。  

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