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息を飲んだのは誰か。
目を見張ったのは誰か。
それは、互いが互いに無関心ではいられなくなった瞬間。
半永久的な平行線が、乱れたきっかけ。
「支倉。お前はここに残れ」
……は? と。
間抜けな声が漏れてしまうのを抑えられなかった。自分の名を呼ばれたのだと理解するのに、数秒を要した。
困惑気味に振り返る。
今この場で引き止められる理由がわからなかった。
俺と会長……『6委員会』にとっては目の上のたんこぶでしかない『生徒会の人間』が、今まさに部屋から出て行こうというときに、何故。
「司会進行はお前の仕事だろう。優先順位を考えろ」
「それは……そう、ですが…」
「お前が退出する必要はない。理解できたらさっさと座れ」
いつもよりずっと感情を削いだ声。
いつもよりずっと冷然な態度。
そしていつもと違うのは、一向にこちらを向かない視線。
頬杖をついたまま、俺を見ないまま、そんなことを言う。
「えっ、と……、」
言葉に詰まる。
確かに、仕事は大事だ。司会は原則、生徒会の副会長がやらなければならないこと。優先順位が高いのは当たり前。
だがその前に、俺は生徒会の人間で。
会長は同じ組織の仕事仲間で、役職や学園の立場から言えばパートナーにあたる存在で。
だから、司会進行の責務を果たすのも、一生徒会役員として会長の命令に従うのも、どちらを選んでも間違いではないはずだ。
間違いでは、ないけれど……。
「───コイツは生徒会の人間だ。テメェの命令ひとつで従うようなヤツらと同等の扱いしてんじゃねえよ」
くい、と後ろから腕を引かれて、そのまま前後が入れ替わり、会長の広い背中が俺のすぐ斜め前に現れた。
いつも俺とのくだらない口喧嘩で怒って笑う男はそこにはいない。会長の碧い眼はどこまでも重く暗く先輩を見据える。
「職務を全うしろ、と言ったまでだ。命令も何も、ソイツが生徒会の人間である限り当然の務めだろう」
それを聞いた会長が、鼻で笑った。
けれど口許に笑みは乗らない。薄い唇が弧を描くことはない。
声はすでに無機質を通り過ぎ、絶対零度に降下し始めていると、気付いた頃にはもう。
『ソイツ』、『コイツ』と。両者が指し示すソレが、他でもない自分のことだと理解した頃にはもう、俺の身体は指先一本すら動かせないほど強ばっていた。
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