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「建前はいい。本音を言ったらどうだ」
「……。」
「テメェはコイツを自分に従わせたいだけだ。従えられねえコイツの立場が気に入らないだけだ」
シン……と、痛いほどの静寂が広がる。
ここで初めて、先輩が目を合わせたように見えた。「生徒会会長」ではなく、「神宮奏」そのものに。
それを証拠に、それまでの、無表情で無機質に仕事の話をしていた目とあきらかに違う。
嫌悪、蔑視、厭忌。直接視線を受けていない俺の方が竦み上がった。
睨むでもなく、眇めるわけでもなく、ただただ冷たくて。
これほどありありと負の感情をオモテに出す先輩の表情は、一度も見たことがない。
会長もそう。俺との口喧嘩なんて日常茶飯事で、会長に怯むことなんてめったにないのに、隣にいることが怖いくらいに、冷ややかな空気を纏っている。
「今一度明確な事実を教えてやる。この場でのコイツの行動における責任を負うのはこの俺だ。勝手な口出しは控えて貰いたい」
「責任、だと? いつも仕事を放棄してソイツに迷惑をかけておいて、どの口がそのような戯れ言を」
「じゃあ何か? 自分自身はコイツにとって常に、無害な立場だとでも? 笑わせてくれる」
ゆっくりと、しかし着実に、周りの視線が、二人ではなく会長の後ろで黙りこくる俺へ移ってきていると、肌で感じ取る。
何か言え、という催促?
それとも、どうにかして止めてくれ、という期待?
そんな目で見られたって困る。
確かに、「コイツ」や「ソイツ」は俺のことだ。蚊帳の外の話ではない。
でも俺だって、どうしてこんな状況になったのか、何がそんなに気に障ったのか、まったくわかってなくて、置いてけぼりにされてるのに。
どうすればいいかなんて、そんなこと。
「たとえ今の生徒会組織が落ち着きを取り戻していようとも、例の一年が入学した当初、ソイツと書記を除いた生徒会の有り様を今更帳消しにできると思うのか。結局、その間の後始末を引き受けたのもソイツだろう。
……つくづく、生徒会には、勿体ない」
さらに体感温度が下がった気がした。
掴まれたままだった腕に沿わせるように俺の二の腕まで到達した会長の手が、痕が残るんじゃないかというほど強く強く握り込んで、自身の方へと俺を引き寄せる。
苦悶の声が漏れなかっただけ奇跡だ。
まるで所有物 を取られたくない子供のような反応だと、頭の隅に浮かんだ考えを、無理矢理振り払う。
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