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「あのときの生徒会の有り様に関しては、言い訳をするつもりもないが……今のは、聞き捨てならねえな」
不意打ちで引っ張られた身体は会長の肩に触れてはじめて止まる。
一瞬でも子供の癇癪と重ねた自分が愚かに思えるほど、この男は容易く俺を手繰り寄せた。
「コイツはもう、生徒会 のモノだ」
それは、そう。その通り。
半年前の、去年の暮れ。俺が生徒会副会長に任命された瞬間から、その立場に揺らぎはない。
「それとも何か。まだ、風紀 のモノとして扱ってるつもりだったのか」
けれど、一度だけある。
先輩から、風紀に勧誘されたことが。
それは副会長になる前のこと。
いつもいつも、危機感が足りないだの学園に無知だのといった理由で仕事に関わらせようとしてこなかったから、俺にとっては寝耳に水の誘いで。
いつも俺をからかうはずの眼差しが、あのときはただ静かに、俺の返事を待っていた。
結果から言えば、答えを出す前に生徒会入りが決定して、勧誘の件は結局触れずじまいになってしまったけれど……。
柄にもなく嬉しかったことは覚えている。
ただの一般家庭の背伸びから、ようやく、一人の生徒として先輩に認めてもらえたのかと思って。
きっとあのとき返事を済ませていれば、今ごろ俺の立ち位置は違っていたことだろう。
でも……どちらかの、所有 とか。
そういうことを考えていたわけじゃなかった。
それとも周囲からみればそう見えるのだろうか。生徒会と風紀、ふたつの組織のトップの人間と交流を持つ俺は、どっちつかずの欲張りな人間に見えただろうか。
「席に着け。何度も言わせるな」
「耳を貸す必要はねえ。来い」
4つの目が、2つの視線が、ついにこちらへと向けられた。ひゅっと息を飲む音が零れないように、慌ててくちびるを噛む。
司会進行の責務を果たすのも、一生徒会役員として会長の命令に従うのも、どちらを選んでも間違いではない。
間違いではないけれど。
でも、今この場で判断を迫られているのは、そうじゃない。
単なる仕事の優先順位ではなく。暗に、『神宮』と『志紀本』、どちらの言葉に俺が従うのかと。俺の意志とは関係なしに、周りはそう解釈する。
「………わたし、は」
何か、何か言って、場を持ち直さないと。こんなことでさらに空気が悪くなるなんて最悪だ。つーか予想できるか、勝手に巻き込むな。
一方に従えば、もう一方からよく思われないことは明白。だって二人とも、普段通りじゃない。俺にだって余裕なんかない。
そもそも何、何でこんな、どちらかの意見を天秤にかけるみたいな、ことに、なってんだ。しかもなんで俺が。
貧乏くじにしたって、洒落にならない。
ああ、くそ…………どう、したら。
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