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ひとり。
「あーー怖かった。近頃の思春期男子って皆こんなかんじなの? 最近の子わかんない」
藤戸の声をBGMに、騒がしくなった会議室をよそに。園陵チトセは、自責の念に駆られていた。
何故もっと早く加勢できなかったのかと。
何故もっと、彼の負担を減らしてあげられなかったのかと。
学園二年目でありながら、彼の順応能力が高いことは知っていた。自分の旧知の友人である風紀委員長とも、生徒会会長とも交流を持ちながら、そこには打算や不純な動機を持たない潔白な人間だとも知っていた。
だからこそ、巻き込まないでほしいのだ。
彼らの確執に。あの二人の、権力者同士の対立に。大事な後輩だからこそ。
けれどまだ大丈夫だ。
彼は『こちら側』の人間ではないのだから。
打算と不純に慣れきった人間たちの勝手な都合など考えず、彼が学園生活を謳歌してくれたら、自分としてはそれが一番だと思う。
次こそは先輩である自分が助けなければと、性差の判別も危うい容貌に決意をかためて、チトセは自分に言い聞かせる。
そしてふと、思い出したように目を瞬かせた。
(そういえば……)
この場には自分以外にもう一人、いるはずだ。自分と同じく、あの二人をよく知る男が。極力荒波立てず巻き込まれたくない参加者がほとんどのなか、人一倍関心を向けそうな人間が。
その人は一部始終を見て一体どう感じたのだろうかと、チトセが顔を上げる、まさにその瞬間。
「…………チィ」
自分の隣から聴こえた、信じられない音に。所作に。悪態に。
チトセは目を見開き、動揺を露わにする。
(舌打、ち……?)
まさか、と。
震える唇を押しとどめ、おそるおそる顔を上げる。
驚きと期待をそのひとみに集約させて。
しかし見上げた先には、いつも通り静かな佇まいを崩さない旧知の友人の姿があるだけで。
それを見たチトセは小さく、諦めにも似た溜息を吐いて固く目を閉じた。
(嗚呼、また────棄てたのか)
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