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* * *  そしてまた、ひとり。 「……面白いものを、見たのう」  誰にも気付かれず、そっと呟いた傍観者が一人。  気だるそうに寄りかかっていた椅子からゆるりと身を起こした彼は、今度は肘掛けに頬杖をつき、自然と持ち上がる口角をてのひらの内側に覆い隠す。  怠惰な姿勢も、長い手足と美貌を持つ者がやるとなれば一転して、計算されたような退廃的美しさをみせる。  紫紺がかった髪の隙間から覗くその瞳は、容貌もあいまってどこか蠱惑的だ。  終始くつろいでいるように見えた彼だが、意識だけは常に周りへと向けられていた。誰もが極度の緊張感にさらされていたなか、唯一、この状況を心底、(たの)しんでいた。  興味関心が向かう先は主にふたつ。  誰もが注目していた、生徒会会長と風紀委員長の対立がひとつと。  とばっちりに等しい巻き込まれ方をした生徒会副会長が、もうひとつ。  傍観者───改め、二葉は、纏まりのなくなった会議室を一通り眺めると、目を伏せて、先ほどの衝突をゆっくり思い返す。  『生徒会会長と風紀委員長の不仲』については、全校生徒が周知の事実だ。  しかし大多数が、風紀を乱す会長と規律を守る委員長の性格的な部分での対立、または学力も権力も影響力もほぼ同程度の者への対抗心だと誤解しがちだ。  あの二人の、いや、両家の溝を知る人間はごく少数しかいないだろう。  しかし二葉は知っている。  彼らの思考、生き方、人間性。幼い頃から見続けたそれらが、どのような過程を辿り、重く暗い嫌悪を育てていったかを。  あの二人の因縁は、なかなかに根が深い。  何せ彼らが生まれる前から延々と続き、子にまで継承された家同士の確執。  この場にいるチトセや自分は初等部に入校する前からの顔見知りだからこそ、相容れないことをよく知っている。  ───それが、まさか。  あのふたりの因縁に、このようなカタチで立ち入る可能性を秘めた第三者が、今になって出てこようとは。 (さすがに、惚れた腫れたなどの色恋沙汰と判断するのは早計だが……して、どのような心境の変化か)  今このタイミングで衝突が起きたのは、ある意味では、例の一年生が間接的な原因なのかもしれない。  より正確に言えば、例の一年に『好意』を示す副会長に原因があるのだろう。  両者の言い分を思い返せば思い返すほど、まるで男の悋気(りんき)そのものではないか。  無関心を貫くわりには、生徒会会長も風紀委員長も、互いのことをよぉく見ている。副会長と接する際の、己が嫌悪する相手のことを。  

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