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生徒会会長の、庇護下にあたる部下。
風紀委員長の、一等気に入る後輩。
生徒会副会長への認識は、二葉が知る限りではこの程度だ。
異例の生徒会入りを果たした一般庶民への一定の興味や、あの人形じみた面構えを崩してみたいと思ったことはあれど、これまで必要以上に親密になろうとはしてこなかった。
盲点だったな、と人知れずごちる。
あの後輩は、今後果たしてどれほどの影響力を蓄えることになるだろう。
軽々しく他人に執着できる立場ではなく、それを重々承知して生きてきた二人の均衡に、一石を投じ得る可能性を秘めた第三者。
昔から腹を読ませなかった人間たちが、はじめて見せた隙。ほころび。弱み。
「はは……実に退屈せんよ」
己の見立てでは、あの副会長自身もまた、オモシロイ。アレには絶対に裏表があると、己の経験と興味関心がそう告げている。
さてこれからどうやって、距離を縮めていくとしようか。
動かないものはツマラナイし、静かなものもツマラナイ。波を立たせて、平穏を壊して、そして混沌に紛れ、己がその中心を掻っ攫うのも───また、一興。
例の一年生はどちらかと言えば、波を立たせる側の人間。中心人物を見極めるのは、もう少し事態が動いてから。
ようやく揺らいだこの均衡。
"手堅く元通り"になど、させてやるものか。
風紀委員長の『提案』を最善策だと同調していた参加者は多かったが、二葉からすればとんでもない下策。
アレは単に変化を厭うだけだ。保守的で不動。あの家の人間は昔からそう。
例の一年がせっかく、不変だった学園を引っ掻き回してくれている今、非常識が蔓延るこの学園に、平穏など要らない。
「お主はまことに………飽かない」
仕掛けるならいつがいいだろう。警戒心が高そうな美しく穢れ無きあの人間を、『こちら側』に引き入れるための、罠を。
神秘的ともてはやされる容貌にゆらりと覗いた貪欲の陰は、瞬く間にその気配を潜めた。
口の端をちろりと舐め上げた舌は赤く、あかく。
(執着と呼ぶにはまだ浅い。)
(しかし確実に、あの存在は火種となりえる。)
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