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会長の親衛隊による王道への制裁は、どうやら失敗に終わったらしい。
というのも、暴力をもって暴力を制すという王道特有の思考回路が炸裂し、王道が制裁の参加者全員をもれなく地に転がしたからだ。
そこには野球部だけではなく、親衛隊のチワワ達も含まれる。
喧嘩慣れしていないお坊ちゃまチワワだろうが、王道にとっては情けをかける対象にはならないようで。まあ最初に喧嘩を売ったのはチワワ側だ、同情の余地はない。
現場に訪れた頃には、すでに王道の影はなかった。
『後処理班』と呼ばれる《親衛隊総括隊》に連なる親衛隊員数名と風紀委員数名がいて、俺たちが来たことをそれはもう驚いていた。
現場はまあ酷かった。
倉庫のなかはボールやらネットが散乱しているわ、チワワは痛みで泣き喚くわ、野球部員は保身に走り出すわ、取り乱した親衛隊員には土下座で謝られるわ、風紀委員には睨まれるわで実に混沌としていた。
会長の親衛隊幹部クラス並びに《総括隊》はこれから夜までみっちり会合が開かれ、野球部は一時部活停止、体育倉庫は立ち入り禁止。
等々、問題は残るけれど、会長と志紀本先輩の衝突と比べたらまだ気持ちが軽い。
そう思わざるを得ないほどには、息が詰まった。今月の《月例会議》は。
「巻き込んで悪かった」
「別に、気にしているわけでは、」
「顔色悪ィぞ、お前」
「……」
ともあれ現場から離れ、会長と生徒会室に帰る最中、会長が俺へと投げた開口一番の台詞はこうだった。
ポーカーフェイスを心がけてはいたのだけれど、顔色までは誤魔化せなかったようだ。
つまり現在の俺にはあまり余裕がなかったものだから、会長が次にこぼした独白めいた一言を聞き、鳩豆顔になるのも仕方なかった。
「………仕事、いつも任せてばかりで悪い」
………………空耳かしら……?
「なんだその反応」
「夏風邪ですか……?」
「人がせっかく頭下げてやってんのに失礼なヤツだな」
「頭までは下げてませんよね。平然と誇張するのやめません???」
ああ俺、いつも通りに話せているなと、鎮まる鼓動を聞きながらようやく嵐が去ったことを実感する。
別に、会長のサボり癖とか、今更だし。
王道が来て以来、生徒会室どころか学園の敷地内にいないことだってしばしばあったし。
何より俺は、副会長だし。
生徒会会長の足りないとこを補うのも、まあ、仕事のひとつだから、そこはもう割り切ってる。だから今更なことを言わないでほしい。バ会長がそんな態度だと、俺の調子が狂ってしまう。
「そもそも、自覚があるならサボらないでほしいんですけど……」
「ほら、生徒会室着いたぞ」
「ちょっと、はぐらかさないでくださ、」
「ふたりとも……おつかれ……」
「あ、タツキ」
「どうした出迎えなんて」
気付けば生徒会棟に到着していて、扉の横にはわんこ書記がハチ公よろしく俺たちを出迎えた。
偶然か、棟付近の監視カメラで気付いたのか、単なる野生の勘なのかは知らないが、冬のココアのようなあたたかいひとみの色を見ていれば、自然と肩の力が抜ける。
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