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わんこセラピーの恩恵を存分に享受していたところ、俺の顔をじいと見下ろしたタツキがわずかばかり、眉を中心へと寄せる。
そして会長をじろりと睨んだ。
「かなで……りお、いじめた?」
「イジメてはいない」
タツキが会長に真偽を問うようにじとりと見つめる。
一般生徒が見れば唸る猛獣のごとき一睨みも、蓋を開ければ俺のために怒ってくれている爆カワわんこだと知っているので別に俺は怖くない。
数秒ほど会長への無言の威圧があったものの、再び俺を見下ろしたわんこは、こちらへとゆっくり両手を広げた。
「……りお、疲れた?」
「え、ええ……とても」
「そう。じゃあ、おいで?」
穏やかな優しい声が、吃ることなく俺を呼ぶ。身長に見合う大きな身体。全人類に是非とも見て欲しい、心配げに垂れ下がった耳と尻尾(幻覚)。
きゅーーん、と来ないわけがない。
誘われるように、広げられた腕のなかへと俺の身体が吸い込まれてゆく。
「バァカ、リオがそう簡単にスキンシップを許すわけが、」
「………」
「……よし、よし…」
「どんな手を使った」
ぽす、とわんこの肩に額を寄せて、少しばかり体重を預けてみる。
なんだこれ、超あったけえ。衣替えしたばかりで半袖の腕、薄いブラウスとベストを通して冷えた身体がぽかぽかと温まっていく。これが子供体温? いや、わんこ体温?
わんこがふわふわ手触りのパーカーを着ていることもあって、お日さまを浴びたお布団に包まれているような気分だ。俺が女なら恋に落ちてた。
いつもの俺の感覚なら、大柄な同性からの抱擁にビビるところだが、相手は大型犬なので別に以下略。
すっぽり抱き込んで頭をなでこなでこしてくれるわんこのぬくもりマジギルティ。
「…………お邪魔しました」
「ん。いつでも、おいで」
ハグといってもほんの数秒程度。そろりそろりと身体を離すと、日溜まりのような笑顔で常にウェルカム状態だと申告された。
ううう、まぶしい。わんこ尊い。
そして燻ぶる自己嫌悪。
タツキが一目見てわかるくらいには、あからさまに憔悴しきった表情をオモテに出していたとは。情けなし。
被害者ヅラしてんじゃねえよ、俺。
たとえあの緊張感の中だろうといつも通りの副会長を演じきれなきゃ、先が思いやられる。
” にゃん “
「うん?」
しかし突然どこからともなく聴こえてきた鳴き声に気を取られ、頭の中はひとまずリセット。
あたりを見渡す。俺の聴覚をもってして聴き間違えるはずがない。
「“にゃん“……?」
「……リオ。もう一回鳴け」
「は? やです。それより今の鳴き声、一体どこから……」
「りお。こーこ」
タツキはそう言うと、自分が着ているパーカーのフード部分をおもむろに持ち上げ……おい。おまえ、おい。
どこになにを連れ込んでいる。
「……ノア」
” なぉ “
ふわふわのフードからぴょこりと出てきた丸い頭。本来、生徒会寮談話室を根城としているはずの。
待て、待て待て。
何故お前が生徒会室 にいる。
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