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御披露目 1
控え室のドレッサーの前に立ち、きゅ、とリボンタイを結い直す。
身嗜みの最終チェック中。
鏡に映るのは、仕立てのいい白のフリルブラウスと黒のテールコートに身を包む自分の姿。コートの裏地には鮮やかな紅蓮の華の布地があてられ、シックに纏まりがちな正装を華やかに仕上げている。
布の生地からカフスリンクスにいたるまで総額いくらするかは一生知りたくない。
いやはや、身が引き締まる。
「りっちゃぁぁん……」
「うまく結べなぁぁい……」
「「してー」」
ちなみに生徒会は何故か、ネクタイの代わりに黒いリボンタイで統一してるらしい。
縦結びにしかならない双子のタイを直してやってから、繊細な曲線美を描くシングルソファへと腰掛け、組んだ足を手持ち無沙汰に揺らす。
すると足元からかまってちゃん攻撃。
“ うにゃ、 ”
「ごはんならさっきあげましたけど」
” みゃっ、 “
「ごはんじゃなくてー」
「お膝にのりたいのかもー」
” にゃんっ “
「「ほらー」」
返事のようなタイミングで鳴く灰と白の猫、もといノアの反応に双子がきゃっきゃとはしゃぐ。
その三匹の様子に和みつつ組んだ足をとけば、ノアはよじよじと短い脚を使って俺の足を登り膝の上におさまった。
いつもの寮の談話室とは違う内装に慣れないせいか、今夜のノアはちょっと興奮ぎみだ。ここに来るまではゲージの中で大人しくしていたのに、解放された後からはずっと俺の傍を離れない。
猫は環境が少し変わっただけでストレスを覚えることもあるから気をつけてねと、ここに来る前に守衛さんに言われはしたが。
……俺だってこの空間に慣れてないんですけどね。
「なんだかんだー」
「りっちゃんに一番なついてるよねー」
「そうでしょうか? けっこう気まぐれですよ、ノアは」
喉をくすぐれば満足そうにごろごろと鳴く。ふわふわの柔らかい体毛を撫でれば、ころんと俺の手にすり寄る。
そのたびに、ちりん、と、ノアの動きに合わせ、喉元で揺れる鈴が小さな音を響かせた。
ああ、そうか。生徒会だけリボンタイの理由がわかった。
ノアの黒リボンとお揃いなんだ。
あ、現在。
生徒総会を無事に終え、まもなく開かれる立食パーティに備えてお着替え中でございます。
ちなみにここ、パーティ会場は城です。
もう一度言います。
学園の敷地内に。城です。
まるで童話から飛び出したかのような、ヨーロッパの建築様式を取り入れた湖上の城です。
もうやだこの金持ち学園。
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