244 / 442

17

「……。お邪魔するよ」 「「!」」  ノアのかわいさの破壊力によって油断しきっていたところに、控え室の扉が押し開かれ、やましいことは何もしてないのに反射でソファの端へと逃げて会長と距離を取ってしまった。  いや、やましいことならしてたか。ノアと。鼻ちゅーもらったし。どうしよう、こんなに胸がどきどきしたのは久しぶりなのですが。  ソファの背もたれ側を振り返れば、こちらを見下ろすマツリの姿。  チャラ男のことだから男の娘の一匹二匹、捕まえて早々にパーティを抜けていたと思ってたのに。 「……マツリか。どうした?」 「リオちゃんと、その後に会長が、控え室に入ったって聞いて……」 「何か緊急の用事でも?」 「あー。いや、何でもないよ」  歯切れの悪い返事だ。あきらかに何かあると思う。  だがここで「友達に嘘なんか吐くなよ!!」などとほざく某王道のような愚行はしない。  嘘を吐く人間にも嘘を吐くだけの理由があるのだから。そもそも、生徒会はおろか全校生徒に隠し事をし続ける俺が言えたセリフでもない。   ---……  ふと耳をすませば、扉の向こうからピアノのかろい旋律。今夜のために呼んだ音楽団の演奏が始まったのだろう。  時計を見ると午後9時。進行に問題なし。  プログラムからいってもあとは生徒会の出番も特にないし、もう解散までここでやり過ごすか。帰寮も11時は越さないだろう。  そして明日の土曜は昼まで寝て午後仕事して、明後日の日曜日はすでに外出の予定が入っている。だから今夜は予定に備えてしっかり寝るのだ。眠い。 「食事は済ませました?」 「下で軽く食べてきた。もう今日はお腹イッパイかな」 「何か淹れましょうか? ここの給湯室もけっこう揃ってますよ」 「ほんと? 見たいな」  緑茶に紅茶、コーヒーにジュース、ノンアルコールのスパークリングやワインまで、サービス精神旺盛にも程がある。  マツリにリクエストされたミルクティーを淹れて一息。タツキあたりもそろそろ帰ってくるかなあ。食いしん坊の双子はもう少しかかると予想。  ゆったりと奏でられる美しいクラシックの調べに浸る。  その間、ノアの首輪の鈴を指先で転がすように弄んでいた会長の目が、猜疑的に細められたことに、会長をガン見する習性のない俺が気付くはずもなく。 「……八雲からもらった例の鈴。まだ持ってるか」 「持ってますけど」 「それがどしたの?」  確か寮の部屋机の中。  仕事用のUSBに結んだ覚えがある。  頻繁に使うデータは入ってないから肌身離さずというわけでもない。  この手のキーホルダーはプレゼント以外だとご当地限定や年明けのお守りくらいしか買ったことがないし、守衛さんには悪いが身につける習慣がなくてすっかり忘れていた。 「会長命令だ。持ち歩け」 「「は?」」  何故? と尋ねてみても、会長から明確な解答を得ることはできず。  まあいいかと深く考えることなく、普段からよく持ち歩くキーケースへと俺は素直に結び直すこととなる。  余談だがノアのお披露目後、生徒会全員がつけ始めた揃いのストラップに生徒が気付き、学園内で鈴つきの小物が大流行することはまた別の話だ。  

ともだちにシェアしよう!