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───《黎》、とは。
俺とタツキを除いた生徒会役員が学園生活の片手間で活動している暴走族の名称だ。
総長は会長。他三名は幹部。
タツキはメンバーではないものの、ふらりと遊びに行くくらいには今もそこそこ関わりがあるらしい。
俺が今年の1月から3月末のほんの3ヶ月にも満たないあいだ身を置いた、族。
街と学園の往復には時間がかかるから本当に片手間だが、ここらじゃ抜きんでた統率力を誇る。
まあ、「暴走族」と言うとどうしても野蛮で物騒なガキの集まりといったイメージが定着していそうだが、《黎》に関しては例外だ。
まず飲酒喫煙は禁止だし迷惑行為も騒音被害も厳禁、無免許運転不可の安全運転、売られた喧嘩は買えども基本的には平和主義。
ただし、帰宅時のOLさんやご年配のようなか弱い市民に絡む連中を撃退したり、家出少年をそれとなく保護したり、他の勢力が暴れていないかパトロールしたりと、暴走族の皮を被った夜間のヒーロー・ボランティアと化している節があるので、《黎》の存在を知る街の市民にはわりと好感を持たれていたりする。
とはいえ、《黎》を辞めてもう2ヶ月以上が経つ。他人事だ。
それに、誰が聴いているかもわからないこんな場所で見ず知らずの人間相手に語ることは何もない。
「いえ、知りません。チームとは何のチームのことですか?」
「……暴走族のコトだよ。《黎》はツキシロ学園の生徒会の人間が幹部やってるってきいたんだけど、学園生みんなに周知されてるってわけじゃないんだね」
「学園の生徒会が、暴走族……」
「まあでも、暴走族っつっても、悪いウワサは聞かないチームだよ。だから"俺ら"もけっこう評価してんだ」
まずは重要事項として───俺が生徒会に所属しているコトを、彼に悟られるような言動を取ってはいけない。
『私は一般生徒です』『そんな事実は初耳です』と言わんばかりの迫真の演技を始める俺をよそに、田中さん(仮)は少し声量を落として話を進める。
"俺ら"、か。
指輪の血痕に気付いた時点で薄々感じてはいたが、どうやら田中さん(仮)もどこかのチームに属する人間、という可能性が濃厚になってきた。
はてさて、学園内でもさほど出回っていない《黎》の幹部=生徒会というシークレット情報を、彼は誰から聞き付けたのか。
どうもきな臭い。そして関わりたくない。
そんな俺の内心も知らず、田中さん(仮)はグッとこちらに一歩踏み込んできて、さらに声を落とした。
もはや囁き声に近い。
試合の熱気がやけに遠い。
「……最近、あるチームが《黎》に喧嘩を売ってて、近々やり合いそうな雰囲気になってるってきいたんだ。だから、気になって」
「……」
「でも、知らないなら仕方ないや」
それは………初耳だ。
いいや、思い返せば、そういえば。
ちょうど1ヶ月前、新入生歓迎祭より前に、会長がそんな話をしてたっけ。“来月末、招集をかける”と。
トラブルと多忙の毎日ですっかり記憶から抜け落ちていたけれど、俺にもお声が掛かっていたんだ。うわあ、他人事じゃない。
今日ですでに6月の下旬。いつ呼ばれたっておかしくない時期に来ている。
族関係の、あきらかにヤバそうな情報を何も知らないままで招集に応じようなんざ、無防備以外の何物でもない。
俺としたことが、準備不足にもほどがあった。
「ね……もしかして、興味沸いた?」
「……」
顔に出したつもりはなかったのに、あっさりと看破されている。
気さくで軽そうな言動が目立つが、こういうタイプは案外、洞察力に長けている部類かもしれない。
しかもこの顔。
興味を持つとわかっていたと、言わんばかり。
「いいよ、サービス。今から行くとこに付き合ってくれたら、オニーサンには俺が知ってるコト、全部教えてあげる」
これはまたとない好条件。
ただ、あんまりがっつきすぎると怪しいか? でも、"ただの学園生"の俺が、学園の生徒会が抱える秘密に興味を持つことは、不自然には思われないはずだ。
相手の考えがわからない段階で鵜呑みするのも危険だが……ああもう、こういう時はごちゃごちゃ考えたって仕方がないのだ。
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