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一体どこに連れて行かれるのだろう。
内心盛大にびくびくしていた俺の不安は、呆気ないほどキレイさっぱり木っ端微塵に吹き飛ばされた。
「一度この店来てみたかったんだよねー。付き合わせちゃってごめんね?」
「イエ……」
「水飲む?」
「あ、どうも……」
「オニーサン、お腹すいてる? 誘ったのは俺だし、何なら奢るよ」
「お気遣いなく……」
「そ? あ、これがメニューだね。先に選んで」
「お先にいいですよ…」
「じゃあ一緒に見ようよ」
「あ、はあ、はい……」
「…………決まった? せーので指そ」
「えっ、えっ?」
「せーーー、」
の。
言われるがまま同時に指したランチは偶然にも同じオムハンバーグセット。さらにドリンクのタピオカミルクティーまでかぶり、「おそろいだね」と、正面に座った田中さん(仮)は殊更甘く笑う。
呼出ボタンを押して、俺の分まで注文を済ませてくれたこのリードっぷり。
田中さん(仮)に連れられてやってきたのは、武道館から徒歩15分程度の場所にある喫茶店。
天井にはシーリングファンがくるくるまわり、店内には今流行りの邦楽がささやかな音量で流れる。人の背丈よりずっと高い壁でひとつひとつの席を仕切られ、まわりの声も気にならない。
正直なところ───拍子抜け、だった。
もっと、路地裏とか廃ビルとか、とにかくやばそうなところに招かれて交渉材料として金品を巻き上げられると思いきや。
「オニーサン、やっぱ警戒してる?」
「……それなりに」
「まあ……そうだよね。あんなヤバそうな話された上について来いって言われたら断りにくいに決まってるのに、俺が何でも勝手に決めちゃってごめん。配慮が足りなかった」
「それでも頷いたのは、私の方ですから。……例のコト、本当に教えていただけるんですよね?」
「もちろん。そういう約束だからね」
果たして信じていいものか。
教えてくれたとして、果たしてどこまでが事実なのか。
本名も知らない、年齢も住んでいる場所も知らない、得体の知れない相手とこうして膝を突き合わせる状況は、俺にしてはだいぶ思いきった行動だと自分でも思う。
かくいう田中さん(仮)については派手な風貌のわりに気が利くし男性店員への愛想もいいし喋りに愛嬌があるしで、『チャラそう』『ゆるそう』『遊んでそう』な第一印象とのギャップにだいぶ驚かされているのだけども、これがこちらを油断させる手のひとつなのかもしれない。
慎重に、相手の思惑を見極めるんだ……。
「ああでも、物騒なハナシは注文が来てからにしよう。待っているあいだは、オニーサンのことが知りたいな」
「私のこと……?」
「というよりは、学校生活のこととか。ツキシロ学園のコトって、詳しく知りたくてもウワサが一人歩きしてることが多いから、何なら在学生にきいた方が確実かなって」
ほら見ろ、さっそく来た。
月城学園の方針は徹底した守秘義務。こっちが教えるかわりにそっちも教えろ、と交換条件を突きつけてきたら、金だけ置いて出ていかせてもらおう。
さて、何について問われるのか。
生徒会メンバーの家柄? それとも学園の機密? 質問事項によっては非常にデリケートな問題となる。悪用が目的なら、こちらとて容赦は───。
「───寮生活って楽しい?」
「えっ???」
身構え過ぎたあまりズル、とソファーから滑り落ちそうになった。
緊張の糸もへなりと撓む。
え、訊きたいことって、そんなこと……?
「あれ、ツキシロ学園って全寮制じゃなかった?」
「そ……そうですけど…」
「もちろん答えにくい内容なら答えなくていいよ」
「別にそのくらいの質問なら……ええと、田中さんは、寮生活に興味がおありなのですか?」
「うん、けっこう。来年受験だから、高校は寮があるガッコに行きたいなって考えてて」
「へえ、高校ですか。高校………こうこう……!!?」
完全に不意を突かれていつもより大きなリアクションを取ってしまった。もう演技とかなんだとか構ってる場合じゃない。
来年が受験。来年が高校。
つまりこやつの実年齢って……。
「え、ハイ。……な、なに?」
「その見た目で中学生だったんですか………あなた……」
このルックスとスタイルで。
明らかにこなれた遊び人感出しておいて、まだ中坊。三年前はランドセル。詐欺。
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