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 きょとんとした顔つきになった田中さん(仮)改め田中くん(仮)は、ふはっ、と吹き出したあと、崩れ落ちるように笑いだした。  テーブルに突っ伏し、肩を震わせている。  今度は俺がきょとんとなる番だった。  そこまでツボに入るようなこと言ったかな……と困惑しつつも、実年齢を知ってしまうと年相応な反応にも思える。  「得体の知れない相手」から「2コ下の中学生」とラベリングできたおかげで、漠然とした怖さが薄まったというか、ちょっとした親近感が生まれたようにも思う。 「ふふ、それ、よく驚かれる。俺ってそんなに老けて見える?」 「い、いえいえ、そうではなくて……、大人びているという意味でして」 「えへへ、オニーサンみたいな格好いいひとに褒めて貰えたら嬉しいなあ」  う。なんだこの気持ち。  こいつちょっと、可愛い、ぞ。  顔をあげた田中くん(仮)がにこにこと嬉しそうに笑いながらそんな嬉しいことを言ってくれるものだから、ちょっときゅんときてしまった。  絶対年上キラーだこの田中くん(仮)。男の俺に通用するんだから相当よコレ。  注文が届くまでの軽い雑談は、思った以上に苦ではなかった。  田中くん(仮)が話を振って俺が答える、それだけの応酬だったけれど、退屈に思えなかったのは田中くん(仮)の話術と懐に入り込むスキルが成せる技なのだろう。  気づけば10分以上が経っていて、頼んだメニューがやってきた。  食事の前に揃って「いただきます」をして、おしぼりで手を拭き、ナイフとフォークをそれぞれ両手に持つ。  鉄板の上でじゅうじゅうと美味しそうな音を立てるオムハンバーグを目の前にして、くう、とお腹が鳴った。  オムレツにナイフとフォークを入れ、切り分けると白い湯気がさらにもくもく上がる。ハンバーグにデミグラスソースとチーズと卵を絡める。湯気をふうふう冷ましてから、大きくくちを開け、ぱくりとひとくち。  あち、あちち。  じゅわ、とあふれでる肉汁。肉の旨味と深みのあるソースが空きっ腹に染みていく。  これは……うまいぞ……! 「おいしい……」 「ならよかった」  粗野に見えないように気を付けつつ、夢中でぱくぱく食べた。  付け合わせの白米と沢庵と味噌汁も順序良く胃袋におさめ、まだまだ腹に余力があったのでついでにデザートのクレームブリュレも追加する。  学園基準だと少食に分類されがちな俺でも、ここのボリュームはちょうどいい。安価だし。  腹も満たして、相手の雰囲気にも慣れてきた頃合い。  切り出すならそろそろだろう。  俺が佇まいを直したからか、田中くん(仮)も本題に入ることを察してこちらに身を乗り出す。 「まず、確認なんですけど……」 「うん」 「そういう情報にお詳しいということは、あなた自身も暴走族の人間……という認識で間違いないですか?」 「うん、間違いないよ。……あ、その顔、信じてないなー?」 「中学生ですしねえ……」 「証明する手段もないし、信じるも信じないもオニーサンの自由でいいよ。まあ暴走族といっても、ただの無名チームの下っ端だし、喧嘩もよえーんで、俺なんかを警戒しても損だけど」 「……」  それが嘘偽りない真実なのか、俺を安心させるための方便かも気になるところだが、そこはぐっと我慢だ。  まず俺が知るべきは、現状、《黎》がどういう状況なのか。そして、俺はこれから何に巻き込まれようとしているのか。  

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