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「「「───っ、キャアアア……!!」」」  、、びっくりしたー……。  午後の準決勝戦。  月城学園と相手校の選手が会場に入った瞬間、悲鳴にも似た歓声が会場を包んだ。まさしく黄色い声。  他校選手や父兄の非難めいた睨みにも気づかず、主に若い女性層は我先にと観客席の最前列に詰めかける。  片方は学園側だ。佐々部さんをはじめ、知ってる顔も何人かいる。  ちなみにいつもは派手な頭髪が認可されている学園だが、今はみんな暗めの茶髪や黒髪で統一されている。黒髪の佐々部さん、黙っていれば普通に男前なのがずるい。 「B高ファイトーっ!!」 「ノゾムー! がんばってー!」 「右から三番目だよねっ? 現役モデルの……」 「雑誌で見るより生のが断然格好いいっ!」 「ノゾムの隣の人も、怖そうだけど格好いいね!」  向こうの応援もなかなかすごいな。  どうやら女性客は何も、学園ファンだけではなかったらしい。  相手校の尾麓高校(通称B高)の選手には、目立つのがいる。二人ほど。  特に女子の大注目を浴びているのは、ファッション誌で何度か見たことがある……ノゾム、という現役高校生モデルだ。  遠目だからはっきりとした造形まではわからないが、ゆるくウェーブのかかったマット系の茶髪に小顔、190はありそうな長身。  まわりの柔道部が強豪らしく男臭くて色黒な重量級タイプが揃っているなか、あの小綺麗さは浮いている。学園生側に紛れてちょうど釣り合いが取れそう。  さらにB高にはもう一人、モデルさんの隣にも目立つのが一名。  ブリーチしまくったソフトモヒカンと大胆に開いた胸板からばっちりわかる強靭な筋肉。見るからに荒っぽいが、顔立ちは悪くないので女子ウケは良さそうだ。 「どっち応援する?」 「もちろんノゾムがいるB高!」 「イケメン学園に決まってんじゃん」 「B高はあの二人以外むさ苦しいしねー。それに比べたら学園の人たちってイケメン揃いだし!」 「主将の佐々部様ほんと格好いいわ……」 「それなら副主将様だって……いやもはや全員…」  アイドル的人気校VS全国レベルの強豪校。  しかしここで一番肩身が狭い思いをしているのはむさ苦しいと言われた目立つ二人以外のB高柔道部員たちだろう。  コアな柔道部ファンの女の子たちが、ミーハー女子たちに「選手のモチベーション下げること言わないでよ…」とか「試合じゃなくて選手の顔でも観に来てんの?」と愚痴をこぼして言い争うところもぽつぽつと。  女の子ってまじ怖いなと思った。 (あ────はじまる、)  外野が見守るなか、両選手互いに一礼し、幕を開けた準決勝戦。  手始めの先鋒を制したのは、B高。  声を枯らさんばかりの声援が会場中に飛び交う。  そんな喧騒の中で、学園派かB高派か、色めき立つ応援席にて、ひとりの女の子の声を耳が拾う。 「あたしも学園派だけど…………うーん、無理じゃないかな」  わお。  キレイな、一本。 「B高のあの二人。ノゾムと、タケルさんっていうんだけど。個人でも全国の5本指に入るから」  0-1で迎えた次鋒戦。  学園の柔道部の三年生がイケメンモデルによって瞬殺された。  しかも荒々しさがない、敵ながらお見事、と言いたくなる試合運びだった。  膠着することなく上手いこと相手に技をかけ、自分より大きな身体をなんなく抑え込む。汗ひとつかかず、柔道着をほとんど乱すことなく、最後の礼までスタイリッシュ。  誰がどう見ても、歴然とした実力差だった。割れんばかりの拍手が耳に痛い。 「っ、毎年毎年、やられてばかりでは行くまい……!」  エース対決とも言われる、中堅。ここで、佐々部さんが主将の威厳を見せた。  開始後、瞬く間に距離を詰め、相手選手を圧倒。  その気迫。その勇姿。  その、主将としての、意地。  学園側の応援席が一気に沸く。周りの応援にも一層、熱がこもる。  手摺りを握りしめる手に力が入った。  柔道部にはさほど縁のなかった俺も、それほど、この試合には魅せられた。  ───だが、副将戦にて。  ソフトモヒカンのB高生徒はそのビジュアルを裏切らない反則ぎりっぎりのラインで技を仕掛けてくる。試合というより、まさしく死合だと思った。  結局、倒されたのは学園の生徒の方。  判定は揉めたものの、試合の結果は覆らなかった。  この時点で、1-3。  その数字は、我が学園の柔道部が県大会の準決勝戦で敗北したことを意味していた。 「───…」  B校の応援席が勝利の確定に沸き立つ中、学園側は選手も応援席も、時が止まったかのように、やけに静かで。  ああこれで彼らの夏は、青春を捧げた三年間は、呆気なくも終わりを迎えてしまったんだなと。その事実をぼんやりと、頭の隅で理解する。  会場を見下ろす先、佐々部さんの広い背中が、いつもよりずっと小さく見えて仕方がなかった。  

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