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 夕焼け空が窓ガラスいっぱいに広がる。  試合を終えて、ミーティングを終えて、主将としての仕事をすべて終えた佐々部さんは、ふらりと、観客が捌けた二階席へと立ち寄った。  そこから試合場を見下ろす後ろ姿は、夕焼けの虚しさも手伝ってどことなく物悲しく見える。  本来柔道部専用のバスで学園まで帰るところを、佐々部さんは一人、「寄り道したいから先に帰って貰って構わない」と送迎を断ったのだという。  俺にその旨を教えてくれたのは、俺と同じく佐々部さんの背中を影から見つめる篠崎くんだ。佐々部さんを一人にしてはおけないと、いてもたってもいられずバスから飛び出して、こうして探しにきたのだと。 「…………あなただったら、こんなとき、佐々部様に、なんて声をかけますか?」  観覧車のゴンドラのなかで見たのと同じような沈んだ表情と、ちいさなちいさな弱音。  励ましたいのにそれができない、と。佐々部さんを見つめる篠崎くんの横顔は雄弁に語っている。  引退した三年生、しかもお世話になった主将。力になりたい気持ちは大いにあって、けれど成し得る術を知らない。  篠崎くんが思い悩むのは当然だ。  藁にも縋る想いで、俺に"模範解答"を求めようとする。  しかし残念ながら、俺が掛けられる言葉なんてたかが知れているのも、揺るぎようのない現実だ。 「『三年間、お疲れ様でした』」 「……………」 「『残念な結果でしたが、よく健闘して下さいました』」 「………」 「『主将としてのお勤め、ご苦労様です』」 「……」 「今日、たまたま応援に来ただけの私が、私の立場で佐々部さんに掛けられる励ましは、これだけです」  冷たい言い方をすると。  言ってしまえば、俺にとって柔道部の敗退は、他人事の領域を出ない。  それは俺が生徒会の人間だから。  学園の部活動すべての勝ち負けに一喜一憂するほど心を割いてはいられないから。  残念だとは思う。選手一同、健闘していたと思う。それこそ尤もらしい模範解答ならいくらでも弾き出せる。  でもそこには熱がない。  用意された台本と同じで、誰が言っても変わらない。  悔しさも、後悔も。  疲労も悲痛も虚無感も。  それを佐々部さんと分かちあえるのは、篠崎くんやほかの柔道部員たち。  この場での俺はあくまで部外者。  何を言ってもその言葉は薄っぺらく、相手には何も響かない。  今、佐々部さんに、本当に必要なのは。 「もしも篠崎くんが私の言葉を使ってしまったら、篠崎くんの心からの励ましではなくなってしまいますよ?」 「……っ、それでも、僕は歓迎祭のとき、あなたに話を聞いて貰って、気持ちが軽くなりました!」 「………」 「あなたならきっと佐々部様のことも……うぐぐ、」  髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜて黙らせる。  ったく、とんだ甘ったれだ。過大評価も甚だしい。お前は俺を万能だと思ってやいないか。  だから今度は佐々部さんの気持ちも軽くしてくれって? 俺が?  まさか。どう考えたって配役ミスだろう。  

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