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 ちなみに奇妙な声をあげた篠崎くんは耳まで真っ赤にしてかちんこちんに固まった。 「まっまっまっttて僕まだ死にたくないしいっいま汗かいてるから本気でやめてくださあああ!!」 「えー……」 「えー……ってなんですか不覚にも萌えたわちくしょう!」  震える手に腕を掴まれそっと押し返されたので仕方なく解放してやる。はいはい離れますよ離れたらいいんでしょうたっくもー。  どちらにせよ後ろの佐々部さんがハグに参加したそうにソワソワし出したのでここはあっさり退くしかあるまい。野郎三人のサンドイッチはさすがに勘弁願いたい。  自分の手を見つめて「触っちゃったあああ」と小声でテンパる篠崎くんに見られてないのをいいことに、くちを尖らせる。  拒否ですかそうですか。拗ねるぞ。  篠崎くんには佐々部さんという人がいるから仕方ないにしても、正直羨ましい。  後輩の存在に飢えている。  できれば従順で気がきいて常識人で優しくて俺の愚痴を聞いてくれるような癒し要員の後輩が欲しい。  高望みだと分かってる。そんなハイスペック後輩がいたとしてもまず間違いなく俺の周りにはいないっつーか寄ってこないことも分かってる。  最近のラインナップだけでも王道・腐男子・年齢詐称疑惑のませガキ中学生。  見事に変わり者ばかり。  類は友を呼ぶって? 鬱だ、しのう。 「……事情は深くは知らんが、うちの後輩が世話になったようだな。礼を言おう」  佐々部さんが篠崎くん側に立って移動し、大きな手が篠崎くんの後頭部をぐわしっと掴んで半強制的に下げさせた。俺に向かって深々と礼をする柔道部二人。  うわ、やめて、通行人に見られてる。  俺がすごく居たたまれない気持ちになるから超やめて。 「ところで副会長。物は相談なんだが」 「お断りします」 「壱河とは友人だったよな。どうだ、お前からも柔道部に」 「話通じてます?」 「何せお前等は友人だろう? 友の頼みならきっと受け入れるに違いない」 「なんと言われようと無理です」  そんなに友情に溢れたヤツなら毎日苦労してねえよ。  そもそもどうして王道では飽きたらず、手当たり次第に勧誘しているんだか。  まあ、柔道部の現状と、主将としての佐々部さんの姿を知った今、何となく納得してしまったけれど。 「……ふむ。そこまで言うなら仕方がない。やはり俺には佐久間しか……」  今回試合に出場していた選手の中でコンスタントに実力を発揮できていたのは、佐々部さんを含めてほとんどが三年生ばかりだった。最高学年だから経験値の差はあるにしても、それでも一・二年は勝ててもほぼ辛勝。  実際に今日この目で見た限りでも、実力で引っ張ってくれそうな『エース』としてめぼしいと思える人材は、一・二年のなかにはいないように感じた。  そんなふうに客観的に分析できるのも、生徒会という役柄上、部費の調整などでそれぞれの部の学年別の戦績データを見ているからだ。  月城学園柔道部は、三年が抜ければ、弱体化する。それは数値というかたちではっきりと示されている。 (……あんたもそれに気づいてて、なりふり構っていられなくなったんだろ?)  王道以外にも勧誘の手を広げていたのは、引退を目前に控え、一刻も早く自分の後釜候補を据えねばならない焦りから、なのではなかろうか。  つくづく猪突猛進型だなあと呆れもするけれど、部活の主将を任されるほどになれば、個人差はあれど皆こうなるのかもしれない。  悪く言えば向こう見ずで。  良く言えば、次世代のことを考え自ら行動できる部活想いで後輩想いな主将。  佐々部さんの紛らわしい告白もどき騒動のせいで生徒に波風が立ったのは事実としても、それは佐々部さんが部活を想うあまりの行動であり、この人柄からして、きっと他意はないのだろう。  

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