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 そして、頑強な意思は時として、他人の意思すら動かし共鳴させることがある。 「……僕も、賛成です」 「篠崎くん……?」 「いいと思いますよ、僕は。何なら協力します。おうど………佐久間の勧誘」 「おお、カズマ……!」  これには素直に驚いた。  あれだけスパッと『王道で萌えてますけど、佐久間はキライです!』とほんの1ヶ月前に言いきった篠崎くんが、"王道"ではなく"佐久間ルイ"に、自ら歩み寄ろうとしている。  どんな心境の変化だろう。  その表情は前向きで、佐々部さんがしつこく王道を狙うから妥協した、とかでもなさそうだ。  篠崎くん自身がそれで良いと言うなら、俺は後押しする以外、言うこともないけれど。 「それなら、ルイには私からも打診してみましょうか。部活動の入部について」 「い、いいんですか……?」 「ええ。もともと、理事長には『ルイが学園に上手く馴染めるように』と頼まれておりましたので。学年関係なく交流できる部活動こそ最適な場かなと、思ったんです」  だって歓迎祭の時点で172回勧誘してんだろ? それ以降もカウントが日々更新されてんだろ? そして佐々部さんが卒業するまできっとその攻防は続くんだろ?  王道、もう諦めた方がいいって。  佐々部さんに目をつけられた時点で、お前はもう柔道部に入る運命(さだめ)なんだ。  それに、王道が入部したら、紛らわしい部活勧誘をする必要もない。  告白疑惑もきっとこれで晴れるだろう。  何よりトラブルメイカーな王道の放課後が部活で削られるとなればトラブルに巻き込まれる回数も自ずと減る。懸念が一度にいくつも解消できて、こちらとしても願ったり叶ったりだ。 「ありがとう! お前、実はすごくいいやつだったんだな!!」  た、単細胞だ……王道レベルの単細胞だ……。  ベンチに座ったままの俺の手をがしっと両手で握った佐々部さんは、その勢いのまま上下にぶんぶんと振り上げる。  何の嫌がらせだ。ヤメロ。もしや握手のつもりなんだろうか、これで。おかげ様で頭までぐわんぐわん揺れたのだが。  これだから脳筋で筋肉細胞な人種とは付き合いづらい。ううう、頭が痛い。  あとそんなに強く握り込まれたら折れる。折れる折れる折れる。 「……もう十分でしょう。手を」 「お前の手、冷たくて気持ちいいな……このままずっとこうしていたい」 「またそんな紛らわしい発言ばかりするから……」 「ん? 何がだ?」 「体育委員長×副会長か……。体格差ペロムシャア」  なんてやり取りがありながらも。  到着したバスに乗り込み、左右に揺られながら、遠ざかる武道館をぼんやりと見つめる。  考え事をする余裕ができると、すぐに頭に甦ったのは先ほどの声。くしゃ、と後ろ髪を掻き立てて、やり場のない感覚を誤魔化す。 『ねえ、あんたさ。他人に対して『必死』になったコト、ないだろ』 『……いいや、なりたくない、ってのが、正しいかな?』  ────動揺してしまったのは、それが事実だからだ。  『必死』って、なんだ。  どのくらいの範囲なら、『必死』になるんだ。  そう思い悩む時点で、相手の掌の上で転がされているようで異様に落ち着かない。舐ぶられた左手にぎゅっと拳を作る。  耳奥にこびりついた毒のような声が、なかなか消えずに離れない。 * * *

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